原作:吾峠呼世晴、アニメーション制作:ufotableによる大人気アニメ『鬼滅の刃』10月10日より無限列車編が放送中です。
無限列車編で筆者が特に注目しているのは第1話から活躍している炎柱・煉獄杏寿郎さん。非常に高い実力もさることながら、正義感が強く、明朗で快活な性格が観ている人を惹きつけますね。
しかし、筆者が記事を書くほど注目しているのは別の理由。発端は第2話で煉獄さんが“炎の呼吸”を使って鬼を倒したシーンにあります。
乗客を守ろうとする煉獄さんの実力の高さや、“炎の呼吸”の演出の美しさ、その後の驚くべき展開からBパートにおける最初の見せ場といっても過言ではないのですが、シーン前半で煉獄さんは“乗客と車両に被害を出さずに刀を振る”という、にわかに信じがたいことをやってのけています。
電車を日常的に使う現代人の皆様ならわかると思いますが、意外と電車の中は狭く、人同士がすれ違うのにも苦労しますよね。劇中のボックス席ならなおさらです。
煉獄さんは車内でバリバリに日輪刀を振るっていますが、実際のところ描写されているような戦闘を行う余裕はあるのでしょうか? ザックリと検証してみました。
なお、PASH+では難読人名・用語解説記事やストーリー紹介記事なども掲載中なので、ぜひチェックしてみてください。
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炎柱・煉獄杏寿郎さんが見せたヤバすぎる技
■本記事の前提条件と無限列車の元ネタ?
本記事で行う検証では、“無限列車”そのもの性能や仕様にはあまり触れませんが、触れる場合には“国鉄8620形蒸気機関車(8620形)”のものを参考にします。
その理由は主にふたつ。ひとつはシンプルに“劇中の無限列車の機関車と8620形のフォルムが非常に似通っていること”。もうひとつは“実際に『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』とのコラボレーションでコラボ車両に使用されているため”です。
コラボ車両として使用されたケースは複数あり、JR九州とのコラボでは2020年11、12月に8620形蒸気機関車の“SL人吉号”が、東映太秦映画村・京都鉄道博物館・嵐電とのコラボでは、8620形8630号機が使用されました。
客車に関しては、外観と両脇に4人掛けのボックス席を配置する内部レイアウトから、2軸ボギー車の三等車ものと判断。また、作中の年代が含まれる1910年~1917年には鉄道国有化後最初の制式木造ボギー式客車形式群“鉄道院基本形客車”が普及しており、客車の寸法について基準が設けられていることから、それらの内部データを参考にします。
なお、劇中描写より線路が明治時代に採用されていた双頭式レールであることを認識できることから、より古い車両である可能性もありますが、ひとまずは上記の条件にて検証していきます。
煉獄さんの攻撃方法に関しては、劇中では腕をしっかりと伸ばして刀を振っていることから、“腕を伸ばした状態で刀を振る”という前提で検証を進めていきます。
■検証その1:煉獄さんが横方向に刀を振ったらどうなる?
2軸ボギー車の三等車における通路の幅は66cm。一般的な廊下の幅は90cmとのことで、人間の肩幅の男女平均は43.2cmなので、体制を入れ替えない限りすれ違うことすらできないと考えるとかなり狭いことが想像できると思います。
煉獄さんの身長はファンブックで判明しているため、肩幅は身長の23%前後、腕の長さは“両腕を横に広げた時の長さ=身長”の条件で概算していきます。また、日輪刀の刀身の長さも併記します。
煉獄さんの肩幅:177cm×23%=40.71cm
煉獄さんの腕の長さ:(177cmー40.71cm)÷2=68.145cm
日輪刀の刀身:約95cm
……。衝撃の事実です。腕の長さが通路の幅を上回っているだけでなく、日輪刀の刀身にいたっては通路の幅の1.5倍です。煉獄さんが通路に立った状態で日輪刀を横方向に振ると、刀身が客席までガッツリ飛び出してくることになります。
劇中の描写では座席の全高よりも直立姿勢の煉獄さんの肩のほうが位置は高いため、肩の高さまで刀身を持ち上げて、水平に刀身を振ればなんとかなりますが、振る際に刀身に角度がついたり、腰を落としたりしようものなら鬼の頸と一緒に乗客の頸も斬られる惨事になるでしょう。
また、2軸ボギー車の三等車における座席の幅は91.4cm。通路から座席の端までの長さ(157.4)より、煉獄さんが腕を伸ばした状態で日輪刀を持った時の全長(163.145)のほうが長いため、通路で横方向に日輪刀を振りぬくと100%客車の壁を傷つけてしまいます。
劇中の描写を見るに、客車壁面は窓ガラスと材木で構成されています。また、煉獄さんの攻撃は人間よりはるかに強靭な鬼の頸をたやすく斬り落とし、さらにはその余波で客車内の座席を粉砕していますから、その威力が客車側面に叩き込まれるとなるとやはり大惨事!
どちらかの客席側に腕の付け根の地点が5.745cm以上侵入させれば、この惨事を避けることができますが、この方法は振り始める際の体勢が多少窮屈になるほか“左右に乗客がいると侵入できない”という大きなデメリットがあります。横方向に日輪刀を振る場合は、まず座席状況を確認する必要があるようです。
■検証その2:煉獄さんが縦方向に刀を振ることは可能なのか?
検証その1で、横方向に日輪刀を振るのは乗客の身が非常に危ないということがわかりました。では、乗客がいない縦方向に振るとどうなるでしょうか? 早速検証してみましょう。
まずは2軸ボギー車の三等車における天井高ですが、251.5cmとなっています。
……。早くも暗礁に乗り上げました。煉獄さんの身長が177cm、日輪刀の刀身が約95cmなので、直立状態で上から刀身を縦に振ると、鬼より先に天井が斬られます。
上から刀身を切り下ろしても問題ない肩の位置は、単純計算で251.5cm(天井高)ー約95cm(日輪刀の長さ)ー68.145cm(腕の長さ)=88.355cm! 煉獄さんの身長は177cmですから、刀身を上から振り下ろす場合は身長のほぼ半分、大体ウエストくらいの高さまでしゃがみながら斬りかかることになるでしょう。
唯一まともに鬼を斬る方法として挙げられるのは、下から相手を切り上げる形。この場合は日輪刀が天井に当たる前に止める必要がありますが、腕を伸ばして全力で刀を振ることができます。
■まとめ:煉獄さんは頭脳も超一流!?
ここまでの検証で“そもそも車両の中で刀を振ること自体が間違いではないか?”と思わなくもないですが、車両の中で日輪刀を全力で振る方法をまとめていきます。
横方向:肩の付け根の位置がどちらかの客席側に5.745cm以上侵入した状態で、刀身が肩の高さ以上の時に水平方向に振る。
縦方向:下から上に切り上げ、天井に刀身が達する前に腕を止める。あるいは肩の高さを床上88.355cmまで落とす。
あらめて見てみると、体勢を変えずに日輪刀を全力で振る方法はたったの2種類(左右含めて3種類)、その場で可能なのは切り上げのみと非常に方法が限られていますね。しかも、これを戦闘中に攻撃動作として行わなければならないとなると、かなりの難易度です。
しかし、それ以上にすごいのは煉獄さんの技量です。アニメ2話の戦闘シーンを入念に見直してみると、一体目の鬼は“右の客席側にジャンプしながら水平方向に振る”、二体目の鬼は“下からの刀身切り上げ”と、なんと本記事で検証した方法を実践しているのです!
特に、一体目に関してはジャンプという動作により“客席や乗客との接触リスク”という筆者の懸念を見事に解決しています。戦闘が始まる際、瞬時にこれらの計算を行っていたのだとしたら、戦闘能力だけでなく頭脳も超一流だと言わざるを得ません。流石は鬼殺隊の最高戦力……!
残念ながらこの戦闘は煉獄さんが見ている夢だった……というオチがつくのですが、夢の中でもここまで緻密な判断ができる煉獄さんはすさまじい技術をお持ちですね! この先の戦闘シーンではどのような活躍を見せてくれるのか楽しみです!
■参考資料
鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録
PROPLICA 鬼滅の刃 日輪刀(煉獄杏寿郎)スペシャルページ
ウィキペディア:鉄道院基本形客車
※煉獄の「煉」は「火+東」が正式表記です。
※画像は公式サイトをキャプチャーしたものを含みます。
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
Source: PASH! PLUS