2019年発売のPASH!5月号では『アベンジャーズ/エンドゲーム』を公開を記念し大特集を掲載いたしました。ここではその特集内に掲載されているアイアンマンの日本語吹き替えを担当する藤原啓治さんのインタビューをご紹介します。
「1作目からは随分トニーも変わりましたよね」と話す藤原さんは、実は演じるロバート・ダウニー・Jrと約20年前から繋がりがあったそう! 彼が何をしたいのか芝居を通じて伝わってくると、共感できる部分も多い様子でした。変化を見せゆく役柄への想いから藤原さんが描く“ヒーロー像”まで、たっぷり伺います!
──2008年公開の『アイアンマン』から公開目前の『アベンジャーズ/エンドゲーム』まで、9作品でトニー・スターク/アイアンマンを演じてきたなかで、彼にどんな変化を感じていらっしゃいますか?
もう10年ですからね、演じるロバート・ダウニー・Jrさんご本人もアイアンマンも渋みが増した気がします。あとは、トニーから笑顔が消えてきましたね(笑)。眉間にシワを寄せることが多くなったというか、大人っぽくなったなという印象です。『アベンジャーズ』シリーズになるとほかの人と絡むことも増え、それに伴って気持ちの面での葛藤も増えてきたのでしょう。
それまでは個人の考えで行動していたように思うので。そういう大人な部分も元々持っていたんでしょうけど、それがより表に出るようになってきましたね。
──演じる上でも変化はありますか?
1作目の『アイアンマン』からベースになっているキャラクターの作り方は当然あるのですが、それが次第に影を潜めてきたというか…。ある意味軽薄に見える面はトニーに必要な要素であり、またそこからどれだけ変化するかが本作の魅力でもありますから、それは最初ことさら強めに出していた部分だったはずなんです。でもそういう根っこは変わらないにしても、物語にシリアス度が増しジョークが減ってきた、というのはやはり感じます。
それに従って僕のお芝居もシリアスになってきてはいますね。実際収録時も「普段の軽い感じは抑え気味にしましょうか」というリクエストがあったりしますから。1作目から順を追って観ると、随分変わったなあと感じます。
──前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では、シリアスな局面ながらもドクター・ストレンジやガーディアンズにジョークを言ったりする場面もありましたね。
僕はあそこは「ジョーク」という捉え方はしていなくて。表現方法の違い…本当のジョークと皮肉の使い分け、というんですかね。トニーのジョークは基本ブラックなものですけど、それでもあそこは真剣に話をするときに多少照れがあったりする際の手段であって、ジョークという感覚ではないような気がします。
──では、トニーのときとアイアンマンのときとで、お芝居に変化は感じていますか?
やっぱり演じている身としては違っているような気がするんですよね。だから僕のお芝居も、生身のときとパワードスーツを着ているときとで変わっています。具体的には、アイアンマン時は〝感情を消し気味になる〟という感じでしょうか。戦闘シーンで生っぽい息遣いや気合いの声をあまり発しない人なので、感覚の面でも機械的になっているのかなと。
──演じながら共感できるところはありますか?
元々アイアンマンというキャラクターが好きなので、演じていても楽しいんですけどね。演者のロバートさんが根っからこういう面を持つ方なんだろうなというのは感じていますし、なんとなく共感できる部分は多いです。実は20年程前、まだ彼が無名の頃に声を当てたことがあって、当時から面白い芝居をする人だと気になっていました。今以上に好き勝手やってる感じでしたから「なんて声を当てにくい人だろう」と思いつつ、でも彼がやりたいことが不思議と分かったんですよ。
ちょっとインチキくさいところも共感を覚えて非常に好きですね。真剣味をあまり出さず、軽さで表現していて。そうすることで真面目な場面がよりグッときますから。まあ、まずキャプテン・アメリカとは合わないでしょう(笑)。
──トニーはスティーブ/キャプテン・アメリカのことをどう思っているのでしょう?
これはいつも思うことなんですが、トニーは周囲と意見が合わなかったりよく対立したりはするものの、実はそれをさほど気に留めてない気がするんです。意見の違いがあるのも承知の上で、「それはそれ」と重く捉えすぎないようにしているんじゃないか、と感じるときがあります。だから僕からは彼が大人に見えていて。むしろ、キャプテン・アメリカはじめ相手のほうがムキになってしまっているように見えるんです。ただこれは物語のために必要な展開として描かれたりもしますから、この点で一概に人間関係を語るのもなかなか無理はあるんですけどね。
──今までで特に印象的なシーンを挙げるなら?
やっぱり『アベンジャーズ』のNYで戦うシーンは好きですね。今でこそみんな一斉に登場して共闘して…というのに慣れましたけど、あれは最初でしたから。キャプテン・アメリカが交通整理するのも大好きです(笑)。人によって戦い方が随分違うんだな! と驚きました。
──では印象深いセリフは?
恐らくみなさんと同じだと思いますが、『アイアンマン』のラストなど、時折出てくる「私はアイアンマンだ」です。自分の意思をもっとも表明するときに使っている言葉なので、普段がのらりくらりとしていることが多いぶん印象に残っています。
──トニーの抱えるヒーローゆえの葛藤はどう捉えていますか?
結局そこが彼のカッコいいところなんでしょうね。ヒーローらしくないんだけど、ヒーローをやっちゃう。それでヒーローには、絶対葛藤があったほうがカッコいいんですよ。強い弱いはあまり関係なくて、生身の人間かヒーローの道か…どちらか選択しなければならないときにそれを選べるのがヒーローだと思うんです。それはやらなければいけないことを優先するというよりも、〝能力がありすぎる〟のでしょうね。
現になんだかんだ周りはトニーの能力に頼っている節がありますし。周囲に当てにされるほどの能力を持っていることが、葛藤を生むのかなと思います。そもそも彼がヒーローになりたがっているかどうかなんて分かりませんからね。なりたいわけでもないけどそうしないといけないというか、結果的にヒーローになってしまう、そういう自分の役回りをこなすことによる葛藤があるのかもしれません。
──藤原さんが思うヒーローとは?
今言った“葛藤のあるヒーロー”はやはり感動を呼びますよね。それまで迷いがあったとしても、覚悟を決めたら最後、精神的に強い人。そして強くありたいと思う人。それがヒーローでしょうか。現実にはスーツを着て戦う人もハルクのような超人もいませんから、なおのこと意志の強さを持つ人がヒーローかなと。ヒーローはたくさんいると思いますよ。いっぱいいていいんです。全人類のヒーローじゃなくても、お父さん、お母さんとかね。
──それでは現時点の物語までで、藤原さんが気になっていることは?
まず婚約者であるポッツのことは、ずっと気になり続けています。また前作はサノスに敗れて終わっているので、あれからすぐ次の行動に移れるのか、それともなかなか立ち直れないほどダメージを受けているのか…その時間経過があるのかどうかは個人的にも気になるところですね。
──ちなみに藤原さんは本作を劇場でもご覧になりますか?
観にいきますね。字幕で観ることも吹き替えで観ることもありますし、必ず家でDVDでも観ます。鑑賞中はついセリフを呟いてしまうこともあって。もちろんOKテイクが使われてはいるんですけど、もっと別の芝居もあったんじゃないか…と自分にダメ出ししてしまうんです。これはしょうがない、もう職業病ですね(笑)。
──彼らの物語が終結する『アベンジャーズ/エンドゲーム』が公開されます。最後にファンの方々へメッセージを!
特に最近、周りの方々が僕に探りを入れてくるんです。「もう録りましたか?」「あれってどうなるんでしょうね?」って。業界の方はもちろん、近所の人も、飲み屋のおじさんまで(笑)。それだけ前作の展開に相当ショックを受けている方が多いと知り、反響に驚きました。ただひとつ言えることは、『インフィニティ・ウォー』で気になったあれそれは大方回収されるはず、ということ。“ちゃんと答えはここにある”、これに尽きますね。感情をざわめかせながら収録したのは間違いありません。僕も劇場へ観にいきますので、みなさんもぜひ楽しんでくださいね。
Interview=小田慶子 Text=鈴木 杏(ツヅリア)
©Disney
Source: PASH! PLUS
『アベンジャーズ/エンドゲーム』藤原啓治さん独占インタビュー!「やっぱり『アベンジャーズ』のNYで戦うシーンは好きですね」