2021年4月よりbilibili動画にて配信され、わずか4カ月で世界での総再生回数1.6億回を突破したオリジナルアニメーション『時光代理人 -LINK CLICK-』。
本記事では『PASH!』4月号に掲載された音響監督・羽田野千賀子さん&翻訳・鳥居怜子さん対談インタビューの一部を特別に掲載します!
音響監督・羽田野千賀子さん&翻訳・鳥居怜子さん対談インタビュー
「視聴者の方が入りやすいよう、程小時と陸光のコードネームを付けました」
日本語吹替版制作において、要といえるおふたりを直撃! 気になる翻訳&収録現場でのエピソードをたっぷり語っていただきました。
現代的でリアルな世界観や物語に驚かされました
――中国語のオリジナル版をご覧になっての感想から聞かせてください。
羽田野:最初は中国発のアニメーションと伺って、歴史モノやファンタジーモノを想像していました。でも実際拝見して思ったのは、今現在のリアルな中国の若者たちを描きながら、ストーリー性は豊かで、すごくスタイリッシュな作品だなと。作画も音楽も非常に現代的で、ビックリしたのが正直な感想です。
鳥居:率直に、「何て作品がやってきたんだ!」と思いました。羽田野さんも今おっしゃったように、これまで私が関わらせていただいた中国発の作品は、ファンタジーかつ古代が絡むものが多かったんです。
でも本作は、等身大の20代の子たちがメインとなり、家族や友達への想いを深掘りしつつ、社会が抱える問題も織り交ぜたストーリーで、そこがすごく新鮮で。脚本もしっかりしていたので、一気に観てしまいました。
――昨今日本でも注目を集めている中国発アニメーションの変化・変遷については、どのように感じていますか?
羽田野:元々は中国の方も、日本のアニメーションや声優さんに興味を持ってくれていたなかで、やはり作品作りとしては歴史的題材が多かったように感じます。それが昨今、情報速度が早くなったことで、急速に垣根がなくなってきた感覚がありますね。
今後は我々のように中国アニメの吹替版に携わる人もいるでしょうし、日本や韓国でアニメーション制作をしている方が中国へ行くことで、グローバルな形で新たな作品が生まれるのではないでしょうか。そうしたアニメーションが世界へ発信されていく流れに期待感もあり、今後がますます楽しみです。
あえて日本の方言に変換しなかったワケ
――前号でアニプレックス・黒﨑静佳プロデューサーにお話を伺った際、本作の翻訳作業は、まず鳥居さんが上げた台本に黒﨑さんたちアニプレックス側でアニメ的な調整を、またソニー・ミュージックソリューションズの時墨悠希舞さんも監修を入れ、さらに羽田野さんが音響監督の視点からチェックして、再度鳥居さんへ戻す……という流れで行っていたと伺いました。そうした翻訳作業で大切にされたことは?
鳥居:まず最初の打ち合わせで黒﨑さんから、「この作品は中国アニメではあるけれど、描いている年代や内容は今の日本の私たちと同じものなので、純粋にアニメーションとして楽しんでいただける作品として、吹替版を作っていきたい」と伺いました。それが私にとっては、けっこう衝撃的で。もちろん中国作品だからどうと意識していたわけではないですが、やっぱり日本のアニメではないということは、頭のどこかにあったんです。
だからその垣根を取っ払って、日本の方が観たときに普通のアニメの一作品として楽しめるよう、言い回しはできる限り工夫しつつ、黒﨑さんや羽田野さんにいろんなことを教わりながら進めていきました。そして作品の良さを翻訳で壊さないようにと、毎回必死でした。
羽田野:日本の方にも受け入れられやすいよう、中国名も残しつつコードネームとして「トキ」と「ヒカル」を使うことにしたのは、みんなでかなり話し合って決めたことでした。また音響監督としては、口の動きのリップシンクロも見なければいけないんですね。大前提として作品のテイストを失わないというのは守らなければいけないので、リップシンクロに関しては役者のみなさんのお力も随分お借りしました。
――映像の口の動きとセリフが合わないときは、どう対処するのでしょう?
羽田野:他の吹替作品も同様ですが、例えば「~した」を「~したんだ」と語尾を若干変えてみたり、ちょっとした修飾語を足してみたり。あとは実際にセリフを言ってみていただいて、テンポを調整したりすることもあります。ただセリフの内容を大きく変えることはできないので、鳥居さんにもご相談しながら進めていきました。
――本作ならではという部分では、中国のさまざまな方言が出てくることもご苦労があったと伺いました。
鳥居:幸いセリフはスクリプトといって文字で起こしてもらえるので、方言で話していても意味自体は分かるんです。ただそれを日本の方言に当てはめてしまうと、伝えたいポイントがズレてしまって。そこで田舎の雰囲気を出したいときは、羽田野さんがうまく調整してくださいました。
羽田野:日本にも東北、名古屋、大阪……と各地に方言がありますが、それを吹替で使ってしまうと地方が特定されてしまいます。それにすべてに方言を付けると、観ている側が少しうるさく感じてしまうことも。そうした演出にするよりは、朴訥とした言葉使いや、役者さん自身が持つ故郷のニュアンスを入れていただくことで、何となく田舎らしさを匂わせるくらいがいいのかなと。
鳥居:それから本作ならではということで挙げると、散りばめられた謎も多いので、キャラクターをどう作っていくかについては、時墨さんはじめみなさんに随分相談させていただきました。本作は脚本自体がものすごくしっかり作られていて、セリフにもこだわりを感じたので……。
羽田野:伏線が多いぶん、それがどう繋がるのか考えながら進めるのが大変でしたよね?
鳥居:そうなんです。直球の言葉を使うのは避けたくて婉曲的な表現にすると、後からネタバレっぽく感じられてしまい、「やっぱり変更させてください」と調整し直したこともありました。
ダイブ中のセリフ分けは一番苦労したところです
――中国語作品の吹替アニメを作る上で、大事になることはありますか?
羽田野:言葉とは綺麗に話すだけではなく、陰や傷があることで立体感が生まれます。ですから中国語であれ英語であれ日本語であれ、基本的には言語にかかわらず心の動きによって言葉が揺れることには変わりはありません。ただ中国語は、話すペースが早く聞こえてしまうことがあるんですね。
それでもっと言葉を足さないといけないかな? と考えるんですけど、鳥居さんに相談すると別に原音が早いわけではなかったりするんですよ。フランス語も早く聞こえますが、英語はそんなことがないので、自分が理解できる言語かどうかにも関係しているのかもしれません。とにかくこの作品をとおして、中国の方々も自分たちと同じペースで話しているんだなというのがよく分かりました。
――トキのダイブ中、ひとりの人物にふたつの声を付けるところで気をつけていたことはありますか?
羽田野:そこは一番苦労したところかもしれません。ダイブ中にトキの声で話すのは、口は動かさず頭のなかだけで考えているシーンと、ヒカルと喋るシーンという原則は一応あるものの、これが必ずしも守られているわけではなかったんです。特にトキと同じ若い男性にダイブする際は、声の判別が付けづらく、鳥居さんはじめ中国語が分かる方々に丁寧に確認しながら進めていきました。
鳥居:現代アニメということもありみなさんも入りやすい作品だったので、「この語順だとどうですか?」など、ご提案を受ける場面がたくさんある現場でした。普段アニメーション作りに携わっている方々が、積極的に意見を挙げてくださって、私自身本当に勉強になりました。
羽田野:みんなで作り上げているという雰囲気が強い現場でしたよね。
鳥居:本当にそう思います。
第9話までの物語で印象的なのは?
鳥居:セリフにはどれも思い入れがありますが、エピソードでいうとエマが出てくる第1話はすごく印象深いです。そもそも依頼人が誰か分からずに物語がスタートしますし、すごく謎めいていますよね。日本でもそうですが、中国で田舎から都会に出て大企業に入るのには、ものすごい努力と覚悟が必要だと思います。
そんななかエマはCFOから秘書に抜擢されるも、パワハラやセクハラを受け、親からは自分を心配する連絡が入って……。彼女が抱える自分たちと変わらないものが、すごく心に響きました。またそんな彼女を何とかしてあげたいと、トキの気持ちが動いてしまうのもよく分かります。
羽田野:家族や人への愛、想いみたいなものが、こんなに描かれている作品は珍しいように感じます。もちろん日本にも同様のモチーフの良い作品はたくさんありますが、本作は中国発というところで、国は違えど我々と同じ感覚を持っているのだなというところに、すごく惹かれました。
中国の実社会の問題もそうですし、第3~5話の地震の物語はなかなか描きにくいことだと思うので、それを真正面から見せているのはスゴいです。個人的には第6話の特別編で、石丸博也さんと千葉繁さんのレジェンド声優さんたちをお呼びでき、感謝の気持ちでいっぱいです。きっとみなさんにも喜んでいただけたのではないでしょうか。そのほかのゲストキャスティングについても、生きたお芝居ができる実力のある方々にお願いしました。
コラム
――バディとしてのふたりにはどんな印象があるでしょう?
羽田野:静と動として、ピッタリとハマる感じがすごくいいなと。また熱く見えるトキのクールな部分、反対にクールに見えるヒカルの熱い部分の対比によって、よりふたりのバディ感が生まれている気がします。
鳥居:年上と年下のバディというところも面白いです。とにかくこのふたりって、言葉が少ないんですよね。お互い聞けば、言えばすぐ分かることなのに、それをしないからすれ違いが起こってしまう。そこがこの物語の見どころでもありますが、見ていてもどかしさも感じます。でもトキは寡黙なヒカルを理解しているし、ヒカルも繊細で突っ走ってしまうトキを理解しているところが素敵です。
――ちなみに中国にも、日本のように先輩・後輩関係を重んじる風潮はありますか?
鳥居:そこまで厳格ではないけれど、あると思います。ですがトキたちは幼馴染みということに加えて、兄弟姉妹がいないぶん、横の繋がりが深くなっているんじゃないかなと。年齢も境遇もそれぞれ違うなかで、仲間として自然とお互い支え合うようになっていくというか、それによって絆や信頼関係が深くなっていくのだろうなと感じます。
Blu-ray&DVD vol.1&vol.2 発売中! Vol.3は5月25日発売予定
アニメ『時光代理人 -LINK CLICK-』のBlu-ray&DVDが好評発売中です。完全生産限定版には、vol.1~3のいずれにも三方背BOX、特製ブックレット、特典映像が付属します。Vol.3は5月25日に発売予定です。
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Source: PASH! PLUS