2022年6月24日に舞台「文豪ストレイドッグス STORM BRINGER」が東京・日本青年館ホールにて開幕した。
6月27日までの東京公演ののち、7月2日~3日には大阪・東大阪市文化創造館 Dream House大ホールにて上演される。
舞台化シリーズ第7弾となる本作のエピソードは、朝霧カフカによる小説『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』。
前作「太宰、中也、十五歳」(2021年10月上演)で描かれた「荒覇吐事件」から一年後、ポートマフィアに加入し幹部の座を狙う十六歳の中原中也のもとに、中也を弟と呼ぶ“暗殺王”ポール・ヴェルレエヌが現れる。自らの過去を追い求める中也。ヴェルレエヌ、アダムとの出会いを機に、闇に包まれたその真実が姿を現す。中原中也とは“何”なのか――?
中原中也役に、シリーズを通して中也を演じ、まさにその身に秘める強大なエネルギーを鮮烈に放つ俳優・植田圭輔。”暗殺王”ポール・ヴェルレエヌ役に佐々木喜英。欧州刑事警察機構の人造知能捜査官アダム・フランケンシュタイン役に磯野 大。十五歳の中也が率いていた「羊」の元構成員・白瀬役に伊崎龍次郎。ポートマフィアの武闘派組織“黒蜥蜴”の広津柳浪役に加藤ひろたか。ポートマフィアの一員である太宰 治役に田淵累生。ポートマフィアの首領・森 鴎外役に根本正勝。そして、中也の出自の秘密を握る謎の人物・N役に久保田悠来。
中原中也のアイデンティティに迫る渾身の物語が、これまでの舞台シリーズすべての演出を手がけ、作品世界の魅力を知り尽くす中屋敷法仁の脚本・演出により描かれる。
本記事は、作品の内容に触れるネタバレがあります。ご注意ください
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中原中也とは一体、“何”なのか。舞台『文豪ストレイドッグス』、通称「文ステ」はついに過去の真実の扉を開く――。
「異能」の力を持つ者たちを擁する「武装探偵社」と「ポートマフィア」がしのぎを削る架空の都市ヨコハマ。2017年の初舞台化以来5年、6作品という圧倒的なスケールで、途方もない物語を紡いできた「文ステ」。前作『太宰、中也、十五歳』ではのちに「双黒」と呼ばれる二人の少年、太宰 治と中原中也の出会いが描かれた。そしてシリーズ第7作となる今回の舞台『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』。前作の1年後、ポートマフィアに加入した中原中也の前に中也の兄を名乗る暗殺王ポール・ヴェルレエヌが現れる。「お前の心に関わる人間を、全員暗殺する」というヴェルレエヌ。中也は欧州の人造知能捜査官・アダム・フランケンシュタインと手を組んで、彼の計画を阻止しようとするが……。
圧巻のアクションやプロジェクションマッピングを駆使し、ハリウッド映画さながらのスケールで物語を届けるが、そこで浮かび上がってくるのは「生きるとは何か、自分は何者なのか」という人間の根源的な命題。心が熱く燃える人間ドラマだ。
満を持して中原中也に挑む植田圭輔。2017年のシリーズ第1作から登場し、今作で中原中也役として5度目の出演となる。自分とは“何”なのか――全身全霊でこの問いにぶつかっていく中也に、植田が熱い魂を捧げて演じているのが伝わってくる。自分は人間なのか、それとも魂を偽造した人間の模造品なのか。自分のアイデンティティに悩みもがく姿が実は一番人間らしいのだと感じさせられた。荒ぶって見せながらも、心の芯の部分では「家族」への思いは強く、揺るぎない。植田の真摯な取り組みによって、中也の人物像が生き生きと色づく。さらに、これまでの上演作品を上回る肉体表現を見せて、物語を熱く躍動させている。
ポール・ヴェルレエヌ役を演じる佐々木喜英は「文ステ」初出演。アニメ化されていないキャラクターだけに役作りが難しいのでは? と想像したのだが、登場した瞬間からヴェルレエヌ以外にはありえない存在感で劇場を満たしたのがさすがだ。これまで数々の作品に出演してきた佐々木だけにキャラクターを立体化させる力が卓越していて、説得力あるヴェルレエヌを作り上げた。中也の兄を名乗るヴェルレエヌで、植田演じる中也と重なって感じる表現もあって印象深い。
同じく「文ステ」初登場の磯野 大が人造知能捜査官・アダムを演じる。人間でないアダムの行動はどこかコミカルなところもあって、中也との凸凹コンビぶりも本作の見どころのひとつ。磯野は膨大な台詞を淀みなく操って、人造知能らしさを体現。一方、アダムの人間よりも人間らしい一面を見せて、心を揺さぶった。
伊崎龍次郎が演じる白瀬は、かつて中也と未成年のみで構成された互助集団「羊」で一緒だった少年。前作では、身寄りのない中也を「羊」のメンバーとして迎え入れた一方、「羊」を守るために排除しようともした。その過程を経て、本作の中では白瀬の人間的な変化や成長を感じさせた。
太宰 治を演じるのは田淵累生。映画『文豪ストレイドッグス BEAST』を経て、キャラクターへのアプローチをさらに深めて臨んだ本作で、シニカルに振る舞いながらものちに中也と「双黒」と呼ばれる関係性を予感させる太宰を作り上げた。
ポートマフィアの首領、森 鴎外を演じるのは根本正勝。「ポートマフィアは家族」という中也を懐深く受け止める森を根本がひょうひょうとした持ち味で演じた。森の存在感の大きさが他の「文ステ」シリーズ作品との繋がりを連想させて、作品をより奥深いものにする。
N役は「文ステ」初登場の久保田悠来が演じる。科学者として、アダム同様膨大な専門用語を繰りながら、その素性はミステリアス、かつ老獪な印象を感じさせる。中也の出自の秘密を握る人物として、中也との迫真のやり取りがドラマを盛り上げる。
注目されるのは、今回朝霧カフカの小説『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』を初めてクロスメディア化したのが本作である、ということ。しかも500ページにも及ぶ長編を2時間15分の舞台に。実際に舞台を観て感じたのは、決してダイジェストにならず、しかも重要なポイントを漏らさないで物語を紡ぎ、スピード感あふれる展開で劇的な昂揚を高めた中屋敷法仁の作劇の確かさだ。シリーズ第1作より全作品の演出を担当し、『文豪ストレイドッグス』の世界を熟知する中屋敷だからこそなせる業というべきか。中屋敷演出が大事にしているのは「人間力」。演じている人のパワーを前面に生かした演出で見せて、「人間の心を動かすのは人間なのだ」という演劇の持つプリミティブな魅力を実感させる。
そして、舞台『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』を観て、中也の、ヴェルレエヌの、アダムの「生きた」姿を体感した後には、小説『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』を読みたくなる。舞台と小説の相乗効果によって、より奥深く『STORM BRINGER』の世界に触れることができるだろう。
ライター:大原 薫
舞台写真撮影:田中亜紀
あらすじ
太宰治とともに『荒覇吐(アラハバキ)事件』を終息させ、ポートマフィアに加入して1年。
幹部の座を狙う中原中也の前に現れたのは、
中也を弟と呼ぶ暗殺王ポール・ヴェルレエヌだった。
「お前の心に関わる人間を、全員暗殺する」
彼の計画を阻止するため、
中也は欧州の人造知能捜査官・アダムと手を組む。
それは横浜を再び飲み込む嵐の予兆。
中原中也とは一体“何”なのか。
射干玉(ぬばたま)の闇に包まれた過去の真実が今、明らかになる――。
公演概要
舞台「文豪ストレイドッグス STORM BRINGER」
原作 角川ビーンズ文庫「文豪ストレイドッグス STORM BRINGER」
脚本・演出 中屋敷法仁
協力 朝霧カフカ・春河35
出演
中原中也役:植田圭輔
ポール・ヴェルレエヌ役:佐々木喜英 アダム・フランケンシュタイン役:磯野 大 白瀬役:伊崎龍次郎 広津柳浪役:加藤ひろたか 太宰 治役:田淵累生 森 鴎外役:根本正勝 N役:久保田悠来
岡村 樹/黒須育海/山中啓伍/小林らら/美守 桃/よし乃
声の出演
蘭堂 役:細貝 圭 芥川龍之介 役:橋本祥平
音楽:岩崎 琢 振付:スズキ拓朗(チャイロイプリン/コンドルズ)
美術:中西紀恵 照明:吉枝康幸 音響:山本能久 映像:森 すみれ/荒川ヒロキ 衣裳:前岡直子 ヘアメイク:古橋香奈子 殺陣:六本木康弘
演出助手:溝端理恵子 舞台監督:川除 学/今村智宏 宣伝美術:水野沙弥香(Gene & Fred) 宣伝写真:上村可織(Un.inc)
WEB制作:Gene & Fred 宣伝:ディップス・プラネット 音楽制作:ランティス
制作:バンダイナムコミュージックライブ ゴーチ・ブラザーズ
協賛:アルジャーノンプロダクト/エフドットハート/タピオカ
【東京公演】2022年6月24日(金)~27日(月) 会場:日本青年館ホール
【大阪公演】2022年7月2日(土)~3日(日) 会場:東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール
※チケット情報は公式サイトをご確認ください
公式サイト
http://bungo-stage.com/
公式Twitter
https://twitter.com/bungo_stage
『文豪ストレイドッグス』とは
2013年にヤングエースにて朝霧カフカ(原作)・春河35(漫画)により連載が開始された、
架空の都市[ヨコハマ]で繰り広げる異能力バトルアクション漫画。
コミックスは現在22巻まで刊行、シリーズ累計で1000万部を突破する大ヒット作品。
Ⓒ舞台「文豪ストレイドッグス STORM BRINGER」製作委員会
Source: PASH! PLUS