映画『プロメア』今石監督&中島かずき&コヤマシゲト&若林広海ガチンコcross talk:延長戦!

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 PASH! 3月号映画『プロメア』特集でお届けした、監督・今石洋之さん、脚本・中島かずきさん、キャラクターデザイン・コヤマシゲトさん、クリエイティブディレクター若林広海さん4人の座談会。残念ながらそこでは載せきれなかったエピソードから、英語版のお話、そして発売されたばかりのBlu-ray&DVDのお話を、特別にお届けします。さらに、気になる今後の展開についても…? Blu-ray&DVDをゲットしてから、じっくり読んでください!!

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中島さんの脚本に近づけるため、英語訳はTRIGGER内でチェックしています

――2019年5月の公開以降、異例のロングランが続いている映画『プロメア』。2019年の年末にはファンの声を受けて英語吹き替え版や英語字幕版の上映も開始されました。英語吹き替えのキャスティングにも携わられていると伺いましたが、どのような経緯だったのでしょうか?

若林 日本のアニメの海外吹き替え版は、それぞれ現地のディストリビューターが主導で制作するのが一般的な流れなんです。ただ、そうなると元の日本語版の声や演技のイメージからある程度かけ離れてしまうのは避けられない。それで、海外のコアなアニメファンは、字幕版で観たがる風潮があって。実際、僕らが海外のイベントに行ったときも、ファンの方々からそういう声を多く聞きました。TVアニメだと、なかなか吹き替え版のキャスティングに関わるスケジュール的な余裕がないんですが、今回は映画だったのと、海外公開の時期が遅めだったこともあり、ならば挑戦してみたいと思い、北米の担当メーカーであるGKIDSの社長に直接相談したところ快諾してくれて。それでTRIGGERで北米版の吹き替えキャストを選ばせてもらえることになりました。これは、あまり前例がないことだと思います。

――実際に、どのように吹き替え版のキャストを決められたのでしょうか?

若林 まずは、こちらから各キャラクターに求める声質や演技の方向性を伝え、先方から送られてきたオーディションテープをTRIGGERの海外担当スタッフと相談し、日本版の意図をなるべく汲んでもらえそうなキャスティングをさせてもらいました。同じ英語でも出身や人種によってもアクセントのつき方など雰囲気がだいぶ違うので、各キャラ毎に、このキャラは西海岸っぽい喋りが良いとか、南部っぽいほうが合うなど、現地のスタッフと相談しながら細かく決めていきました。

――なるほど。実際に英語吹き替え版を観て、ルチアの再現度が高く驚きました!

若林 実は北米版のルチアの声を担当している声優さんは、他作品でも新谷(真弓)さんの吹き替えを担当している方で、この方は名指しでお願いしました。ただクレイが難しくて、やはり堺さんのようなお芝居をされる方がいなくて…。先方のスタッフとも話し合った結果、アメリカでは分かりやすいキャラのほうが良いだろうということで、日本語版よりもシンプルな敵キャラのような声質とお芝居に落ち着きました。

――英語吹き替え版を観た感想はいかがでしたか?

若林 自分たちが作ったアニメなのに、初めて観る作品のように思える不思議な感覚でした。みなさんオリジナルである日本語版をリスペクトしてくれていると感じましたし、特にリオは声質も近かったですね。

中島 そうだよね。普通は、リオを早乙女(太一)くんみたいな声質にしようとは思わないよね。

若林 そうですよね。当然、最初に先方から提案されたのは、もっと女性っぽい声の方でしたから。ガロは、北米版では良い意味で暑苦しさが増したと思ってます(笑)。

今石 アメリカ的な“愛すべきバカ”、という感じだよね。

若林 ですね(笑)。でも、ただの筋肉バカになると違うので、ウエットなシーンではシリアスに、かつ純粋で真っ直ぐな心を持っているキャラクター性は絶対ないといけないので、ガロは特にこだわってキャスティングさせてもらいました。

――中島さんの脚本ならではともいえる歌舞伎テイストの部分は、どのようにディレクションされたのでしょうか?

若林 歌舞伎と言ってもなかなか意図が伝わらないのと再現するのは難しいという判断になったので、オリジナル版を参考にしつつ、とにかく大袈裟に自信たっぷりに演じてもらうことで英語版の歌舞伎っぽさを表現しました。

コヤマ 必殺技を言うときの名乗りっぽい感じですよね。ただ、難しいなと思ったのは、本来の『プロメア』は中島さんが書いた日本語のセリフと澤野さんの劇伴、それに効果音ふくめてリズムが成立しているんですよね。それが吹き替え版だと、曲とセリフのリズムが少しズレてしまって。致し方ないのですが、そういう意味で映像的なグルーヴは変わっているなぁと。

若林 日本語版は音のリズムをかなり突き詰めて作りましたもんね。

今石 セリフのイントネーションのピークも、前にくるのか後ろにくるのかで印象が違うしね。

若林 そんななかでも、文法的には違うけど日本語のセリフに近いイントネーションにしてくれているので、本当に頑張って寄せていただいていると感じました。

――では、英語訳はどのように制作されたのでしょうか?

若林 中島さんの脚本は語呂合わせなんかもたくさんあって英訳が難しいので、一度現地の方に訳していただいたものを、今石さんやTRIGGERの海外担当スタッフでチェックして、中島さん独特のワードやセリフがかぎりなく近い印象に伝わるように整えています。『キルラキル』から同じ方法です。ただ、やはり言葉選びは悩みますよね。

中島 『キルラキル』だと、例えば「繊維喪失」という言葉ひとつとってもそのままでは英語訳できないですからね。

――英語吹き替え版を観て、ラストでガロとクレイが戦うシーンでガロの「クレイ、てめぇ」のセリフが「You’re my hero.」に、そのあとのクレイの「救世主だよ、人類の」が「I am a hero.」になっていたことに衝撃を受けたのですが、あのセリフも日本語を直訳したわけではないですよね。

若林 そうですね、単純な訳ではなく、ニュアンスがきちんと伝わるようにしています。「救世主」をそのまま英訳すると「メシア(Messiah)」になりますが、それだとニュアンスが異なるため、ストレートに「hero」のほうが伝わるかなと。どうすれば世界中の人に伝わるのか考えるのがすごく難しいけど、苦労して調整したぶん、観てくれた人にはダイレクトに伝わったと思います。

コヤマ 「ハイパー火の元用心パンチ」の訳がすごいツボに入っちゃって(笑)。「Fire Safety Punch !」なんですよね。そのまんまっていう(笑)。

若林 ほかにもそういう、『プロメア』ならではの単語の英訳で面白いものがあって。たとえば「マトイデッカー」は英語版だと「マトイデックアウト」になっているんです。「deck out」ってラッパーがじゃらじゃらした金のアクセサリーなんかをつけてデコる、みたいな意味のスラングで使われているんです。そういった言葉を、遊び心としてあえて使ったりもしています。

パッケージ版は家庭で見られるように、すべての色を調整しました

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――2月5日に発売されたBlu-ray&DVDでは、本編映像でどのような修正を加えられているのか教えてください。

今石 ほぼ、色と撮影ですね。作画は単純なミスを修正したくらいで、絵そのものを描き直したシーンはほぼないです。公開直前、最後の数日間で追い込み切れなかったところを全部直すのが主目的で、当初想定していた完成版により近づいたと思います。そうはいっても、劇場公開版も好きなんですけどね。

コヤマ 公開前にベストは尽くしたので致命的なミスというよりは、あと何日かあったらここまで仕上げられたんだ、という作業をやった感じですよね。ただ……これはもうキリがないですよね。極端な話、あと1年もらえればもっといじれるわけで(笑)。

中島 僕はやっぱり、ラストシーンでリオが炎を見送るときに「行くのか?」という一言を入れたいなって初号試写を観たときから思ってましたね(笑)。「今から間に合わない? 間に合わないよね…」っていう(笑)。Blu-ray&DVDでも入れたかったな。似たところで、デウス博士の研究所でガロが言った「さっきの男じゃねぇか」というセリフも、あれ明らかに間違いなんですよ(笑)。どう見ても、ポリゴンの博士と生前の博士は見た目が違うから。脚本のときはあんなふうにポリゴンになると思っていなかったから、あのセリフにしていたんです。

今石 だけどね、ダビングし直すかどうかは、かなり大きなハードルです(笑)。

若林 ダビング修正ができるとなると、「あそこの曲、もう1テンポだけずらしたいな」とか修正できちゃうんですけどね。人によって修正したいポイントは違うと思いますが、今石さんはカット2が直った瞬間声が漏れてましたよね(笑)。

――カット2というと…?

今石 アバンの、電車の中のサラリーマンのシーンです。そのシーンで絵の差し替えをミスって、リテイク前の処理が違う絵が使われたまま納品されそうになったんです。上映前の、本当は直しちゃいけないタイミングで急遽修正して、なんとか間に合わせました。

若林 2カット目からミスを見つけてしまって初号試写で「ダメだ〜」って頭を抱えていて(笑)。ただ今回は映画を何回も観てくださった方が多いので、Blu-ray&DVD版ではダビング修正はせず、公開時の音のテンポを崩さないほうがいいと思ってるんですよ。

中島 いやいや、だから劇場公開版と修正版を両方入れるんですよ!

若林 2本とも!?(笑)

コヤマ むしろ僕は、劇場公開版はこの先20年くらい観られないくらい方がいいんじゃないかなと思ってますよ、レア度上げるために(笑)。

中島 じゃあ、劇場公開版は我々が年金をもらえなくなったときに出して、小銭を稼ぎましょう。

一同 (笑)。

若林 話を戻すと、手を入れたのは、色とグラデーションと細かいところの修正ですね。

中島 熱心なファンなら、Blu-rayを観て気づく人も多いんじゃない?

コヤマ でも細かい修正箇所を見つけるのは超A級難度だと思います。リオのまつ毛の色とか、目に見えて違うところもたくさんありますけど、たぶん色彩設計の垣田(由紀子)さんと今石さんと僕くらいしか分からない箇所もあるはずだし。これ、全部気づいたら超人ですよ(笑)。

今石 歯の色が、黄色みがかっていたのが青みがかったのになったところとかね。細かいところは僕も分からないかもしれない(笑)。コヤマさんがOKだったらそれでOKなので。

中島 じゃあ、読者の方は、分かったものをコヤマさんのTwitterにリプライしてもらおう(笑)。

コヤマ リテイク表を片手にお待ちしております(笑)。

若林 (笑)。あともうひとつ、劇場公開版の色は映画館のスクリーンに投影されるために調整した色だったため、パッケージ版ではご家庭のテレビ画面用にすべての色を調整しました。

――そういった作業は、どんな作品でもなされることなのでしょうか?

若林  スタッフによると思いますよ。『プロメア』は色に対するこだわりが強いので、シーンごとに明るさや混ぜる色などを何度もチェックしていきました。

コヤマ  既製品の同じモニターでも微妙に個体差があって、見え方は違ってしまうんですよね。メーカーや各ご家庭での設定によっても変わってしまいますし。『プロメア』の場合、わざわざ劇場までモニターを3台くらい持ち込んで毎回チェックしていました。

――ありがとうございました! 最後に、お話しいただける範囲で今後の展開について教えていただけますでしょうか?

コヤマ ラズベリー賞とか欲しいなぁ(笑)。

中島 ラズベリー賞とれたら続編作ります(笑)。

若林 (笑)。ありがたいことに今でも全国でカフェコラボやグッズコラボの展開をたくさんしていただいていますし。公開から半年以上経っても、こうやってインタビューをしていただけるのもありがたいことのひとつですね。

中島 いつまで上映されてるんだろうね?

若林 ここまで延びると終わる日が悲しくないですか?

中島 それは悲しいよ!

若林 寂しいですよね。今後もイベントやコラボ、資料集などの発売は企画していますので!

中島 残り火が消えない程度に、細く長く続けていければいいですね。

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PASH!(パッシュ)2020年 03月号

DATA
■映画『プロメア』
公式サイト:https://promare-movie.com/
公式Twitter:@promare_movie

STAFF:
原作=TRIGGER・中島かずき
監督=今石洋之
脚本=中島かずき
キャラクターデザイン=コヤマシゲト
美術監督=久保友孝
色彩設計=垣田由紀子
3DCG制作=サンジゲン
3Dディレクター=石川真平
撮影監督=池田新助
編集=植松淳一
音楽=澤野弘之
音響監督=えびなやすのり
タイトルロゴデザイン=市古斉史
アニメーション制作=TRIGGER
製作=XFLAG
配給=東宝映像事業部

CAST:
松山ケンイチ
早乙女太一

堺 雅人

佐倉綾音
吉野裕行
稲田 徹
新谷真弓
小山力也
小清水亜美
楠 大典
檜山修之
小西克幸

©TRIGGER・中島かずき/XFLAG 
1枚目のイラストクレジット/イラスト:佐倉みなみ 彩色:垣田由紀子(T2スタジオ) フィニッシュワーク:コヤマシゲト

Source: PASH! PLUS
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