10代から圧倒的な支持を集めるクリエイターユニット・HoneyWorksが、2020年で結成10周年を迎えた。その集大成ともいえる、『HoneyWorks 10th Anniversary “LIP×LIP FILM×LIVE”』が、12 月25 日(金)に公開される。
この度、PASH!PLUSにてそんなHoneyWorks にインタビュー。10周年の想いや、3人に影響を与えた声優の存在、そして映画の見どころについて、コンポーザーのGom(ゴム)さん、shito(シト)さん、イラストレーターのヤマコさんの3人に、たっぷりと語っていただいた。
HoneyWorksインタビュー
――10周年おめでとうございます。さまざまな活動を改めて振り返ってみて、どのように感じていますか?
Gom:始めたばかりの頃は、ここまでメディアミックスな展開ができるなんて想像もしていなかったので、いろんなことを経験させていただけて、とてもありがたいです。やりたいと思ったことにひとつひとつ挑戦してきた結果、ここまでやってくることができました。
shito:その都度その都度、やりたいことを口に出してきたのがよかったのかもしれません。しかも、「これがやりたいです!」と周りに伝えるだけじゃなく、「これをやろう」と自分たちのなかで目標を立ててやってきました。それを全部実現することができた10年間だったので、個人的にはあっという間でした。
ヤマコ:最初はボーカロイドのMVの絵を描くというところから始まったのに、マンガを描かせていただいたり、作品がアニメ化したことでアニメーション制作に携われたり……。どれも憧れの世界だったので、まさか夢が実現するなんて思ってもいませんでした。しかもオリジナルのものを作れていることが、本当にうれしいです。
――活動していくうえで、大切にされてきたことはなんですか?
ヤマコ:自分たちでできることであれば、やりたいなと思ってきました。HoneyWorksにNGはないので、「やってみたい」という気持ちはあっても、「やりたくない」と思ったことは一度もなかったんです。
shito:小説化のお話をいただいたときも、「作品が面白くなるのであれば、何をやっても大丈夫です」っていうスタンスでした。僕らが大切にしているのは、なによりも作品を受け取ってくださる方が喜んでくださること。その機会が増えるのであれば、どんなことにもオープンに積極的にやっていきたいんです。
――そんなオープンなハニワの活動のなかでも、勇気が必要だったお仕事はありましたか?
shito:僕は特にないな。
ヤマコ:そうだね。アニメだったり、アルバムを作ったり、イラストと実写を合わせたMVを作たり……どれも初めて知る世界だったから、常に楽しみながらやってきたことばかりでした。
shito:どれもポジティブにやってこれたよね。
Gom:あ、1つだけ思い出しました。
shito:何? 何?
Gom:『T-SPOOK』というハロウィンのイベントに2015年に出演させていただいたんですが、そのときのパレードは勇気がいりました(笑)。
shito:ああ~!(笑)
Gom:ハロウィンの仮装をしながらのライブはドキドキしましたね。
shito:しかも、共演しているアーティストさんが豪華だったんです。きゃりーぱみゅぱみゅさんやももいろクローバーZさん、超特急さんなどなど……。しかも皆さん顔出しで活動されている方々なので、パレードで歩いていても歓声がすごかったんですが、僕らは顔出ししていないので……(苦笑)。
ヤマコ:「誰?」ってザワザワしてたね。
Gom:10年の活動のなかでも、あれだけはかなり勇気のいる挑戦でした。
一同:(笑)。
――長年描き続けている、恋愛や青春というテーマの魅力はどのようなところでしょうか? 続ける難しさ、楽しさを教えてください。
Gom:わりと自然に続いてきたな、という印象です。
shito:うんうん。確かに青春を書き続けてはきたんですが、ひとつひとつの瞬間を楽曲にしているので、実はまだまだ描ききれていないんです。それくらい、青春を感じる瞬間は、無限にある。ヤキモチをやく青春もあれば、告白する青春もある。そんなたくさんの青春の“瞬間”を紡いでいるので、テーマが同じでも難しいと思ったことはないですね。
ヤマコ:それに、私たちが描いている青春って、時代が関係ないんです。
shito:そうそう。学生時代に誰かを想う気持ちって、いつの時代も変わらないもの。だから、Twitterで学生さんたちのリアルな青春ネタを見つけては、「次はこれを歌にしてみよう!」ってやってます。
ヤマコ:たまにファンレターで、「ネタを提供します」ってご自身のエピソードを書いて送ってくださる方もいます(笑)。こんな出来事があったので、曲に使ってくださいって。
Gom:来るよね。
ヤマコ:そういうのをたくさん見ているので、常に“きゅんきゅん”していますし、おかげで自分達も、学生時代の気持ちのままでいられるんです。
shito :むしろ、つい自分達も青春真っただ中にいるって勘違いしちゃうよね。
Gom:(笑)。
――そういったファンの声を参考に生まれた曲やキャラクターはいますか?
shito :あります。「金曜日のおはよう」という楽曲は、Twitterで見かけたエピソードから生まれました。真剣に前髪を気にしている女の子がいたのでふと見ていたら、その子が男の子のもとに挨拶しに行ったっていうツイートを見かけて、なんてかわいい行動だろうと思ったんです。そういうのを見かけるたびにメモをしているので、SNSにはかなり影響されています。
Gom:この10年は、特に10代の子たちがSNSにどんどんハマっていったと思います。いままでは、直接話しかけるっていうストレートな伝え方しかなかったけど、SNSができたことである意味回りくどくなったというか。いろんなツールを駆使して相手の気持ちを探っていくのが、彼らのスタンダードになっていると思うので、曲を作るときもその感覚には影響されますね。
shito:スマホがあるおかげで、家電しなくていいのはでかいよね(笑)。
Gom:だいぶ古い(笑)。
――スマホがなかった時代に、友だちや好きな人と電話するときは、その子の家の固定電話にかけるしかなかった時代ですね(笑)。
shito:一発で本人が出てくれたらラッキーだけど、だいたいは親が電話に出るから、「夜分遅くすみません、○○ですけど○○さんいますか」って言わなきゃいけない。あれが緊張するんです。
ヤマコ:「夜分遅くすみません」なんて、家電にかけるために覚えた言葉だよね(笑)。
shito :30代以上の人たちには、この“家電あるある”が通じるはず(笑)。
Gom:僕は電話ボックスからかけてたな~。
shito :うわ~懐かしい……!(笑)
――ヤマコさんはイラストで、たくさんのドキドキな瞬間を描かれてきましたが、特に大切にしている場面はありますか?
ヤマコ:告白するシーンです。たくさんの告白の瞬間を描いてきましたが、毎回すごい緊張感があって。キャラクター本人は、心臓の音が聴こえちゃいそうなほどドキドキしてるし、瞳もいつも以上にキラキラしているので、緊張感がありますね。彼らはその一瞬にすべてを賭けているんだと思うと、描いている私のなかにも自然とそういう瞬間の記憶や緊張感がよみがえってくるんです。
――音楽とイラストによる相乗効果も魅力。3人のなかでお互いに影響し合うことはあるのでしょうか。
shito :HoneyWorksのコンセプトが、一曲聞き終わった時に、まるで少女漫画を一冊読み終えたような感覚になってもらうことなんです。
ヤマコ:私は仮音源をもとに絵を描きすすめていくんですが、完成音源が上がって来たときに、さらにはっとさせられることはあります。
――初期の3人だけで作っていたときと、声優さんが演じたり歌ったりされるようになってからとで、発見や変化はありましたか?
ヤマコ:声優さんの声がついたことで、キャラクターの個性も強くなりましたし、キャラクター像が固まった気がします。戸松遥さんのお芝居や声は、榎本夏樹そのものですよね。瀬戸口優も、神谷浩史さんに声を当てていただいたことで、もっとクールでお兄さんっぽいキャラクター像が出来上がりました。それに、絵を描いているときは、声優さんのお声で脳内再生されるので、イメージが固まったと思います。
Gom:ボーカロイドではなく生身の人間が歌うことを想定して作る以上、楽曲面でも違いは大きかったですね。最初の1曲目を歌っていただいたことでイメージが固まったので、2曲目はさらに濃いものになりましたし。印象的だったのは、望月蒼太役の梶裕貴さんのレコーディングです。複数のキャラクターで歌う楽曲があるんですが、レコーディングのトップバッターが梶さんで。そのとき梶さんが、普通に歌うのではなく、歌詞の内容にあわせてセリフとして表現するアレンジをしてくださったんです。おかげで、その次にレコーディングする声優さんたちも、同じようにセリフとして歌うことになったという(笑)。他の人が普通に歌ってしまったら、梶さんの掛け合いセリフが成立しなくなってしまいますからね。
――11月6日に「婚約戦争 feat. 瀬戸口優×望月蒼太×芹沢春輝(CV:神谷浩史・梶裕貴・鈴村健一)」のMVが公開された際も、梶さんが「ハニワさんの楽曲は、毎回レコーディングが楽しいです」とツイートされていましたね。
Gom:あの曲も、まさに梶さんが歌い方をアレンジしてくださった曲です。仮歌はただ普通に歌ってるだけなんですけど、梶さんが「もちただったらこういう気持ちだから、こうしてもいいですか?」「セリフに変えてもいいですか?」と提案してくださって。「やっちゃっていいですか?」とおっしゃっていたので、「やっちゃってください!」とお任せしました(笑)。
――もはや、声優さんたちも、ハニワの曲作りの一員なんですね。
Gom:そうなんです。皆さんが曲のなかでしっかりキャラクターを演じてくださるので、ありがたいですね。梶さんの後に収録する鈴村さんと神谷さんが、梶さんのお芝居を受けて表現してくださるのを見ていると、チームワークも感じます。
shito :声優さんが歌うメリットは、ボーカロイドにはない感情が入ること。声優さんが歌うとあらかじめわかっている状態で新曲を書くときは、その方が歌ったときにより感情が伝わりやすいような歌詞・曲を書くようになりました。例えば、感情をこぼして歌ってほしいときはオケを静かにして、イヤホンで聞いたときに、声優さんの繊細なニュアンスがより伝わるようにしてみたり、音の震えをあえて残してみたり。そういうのを計算しながら楽曲を書くようになりました。
――12月25日には、3作目となる映画『HoneyWorks 10th Anniversary “LIP×LIP FILM×LIVE”』が公開されます。アニメパートとライブパートで構成するアイディアはどこから?
Gom:いままでバーチャルでライブをやったりと、確実にステップを踏んで展開してきたので、今回の映画はその集大成にしたかったんです。アニメパートだけの映画よりも、もっと濃いものにしたくて。
shito :ライブパートではLIP×LIPのアイドルとしての一面が、アニメパートでは勇次郎と愛蔵の人間らしい部分がそれぞれ描かれています。両面をセットで観ていただくには、この方法がぴったりだなと。
ヤマコ:彼らの葛藤だったり、悩みだったりっていう裏の部分を知っていただいてから、アイドルとしてのキラキラした部分を観てもらいたいよね。
――より尊さが増しますね。お気に入りのシーンはありますか?
shito:人間くさいところですね。ファンの行動に怒った勇次郎が「今度やったらブラックリスト入りだかんな」って怒るシーンがあるんです。キラキラしてるだけじゃなくて、性格の悪い部分までしっかり描かれているので、それを見せることができてよかったなと。そういう素の彼らも知ったうえで、LIP×LIPのファンになってもらえたらうれしいですね。
ヤマコ:LIP×LIPとして表舞台にいるときは、バディ感があって息ぴったりなふたりだけど、プライベートでは連絡先も交換してないっていう裏側がリアルですよね。それでも、ちゃんとお互いのことは理解しようとしているという、あの距離感や関係値を映画で描いていただけたのがうれしかったです。客観的に観たときに、男性アイドルキャラクターとしてかっこいいなと思いました。変に慣れ合ったり媚びたりしないところがいいですよね。
Gom:今回はLIP×LIPの物語ですが、告白実行委員会にいままで登場したキャラクターたちも、あちこちに散りばめられています。どのシーンに誰が出てきているか、見つけるのもきっと楽しいと思います。
――ヤマコさんがおっしゃった「距離感」は、まさにハニワ作品で大切に描かれてきた要素かと思います。恋愛にしろ、アイドルにしろ、キャラクターたちの些細な心の距離感を丁寧に描いているなと。
ヤマコ:そうですね。告白するまでは、かなりじわじわと距離感を詰めていきますし。でも付き合ったとたんに、急にラブラブになったりして(笑)、距離の詰め方にも変化があったりします。
――そういうキャラクター同士の関係は、ヤマコさんが決めることが多いんでしょうか。
ヤマコ:曲先行、歌詞先行ではあるので、それをもとにMVの内容を考えていくんです。だからキャラクターの関係値を決めているのは、Gomとshitoですね。
shito:もちろん大まかには決めたうえで曲を作っているんですが……でもそれを成長させるのはヤマコなんです。
Gom:さらにメディアミックスな展開をしていくことによって、キャラがどんどん人間味を増していくので、曲を作るうえでも大事にしていかないとなって思います。
――映画の主題歌であるLIP×LIPの新曲についてもお聞かせください。オープニング主題歌は「LOVE&KISS」の聴きどころは?
Gom:この曲は、映画のために書き下ろした楽曲です。キラキラした面だけじゃなく、泥臭さや葛藤、切なさといった人間味も描きたいなと思って作りました。なので、サビもはじめはキラキラしているんですが、ストリングスを入れて切なさも増すようにしてみました。
――エンディング主題歌「この世界の楽しみ方」についてはいかがですか?
shito:「LOVE&KISS」がアップテンポな曲だったので、エンディングはしっとり締めたいなと思ってバラードを作りました。あえてアイドルソングを意識せず、メッセージソングとして書いています。歌詞は、大人になったLIP×LIPが、まだ子どもだったころの自分達に話しかけているようなイメージで書きました。今の10代にも、大人の想いが響いたらいいなという願いを込めています。この曲が出来上がって曲のタイトルが決まってから、映画のタイトルも『この世界の楽しみ方~Secret Story Film~』になりました。
――最後に、ファンへのメッセージをお願いします。
ヤマコ:10年間、いろんなお仕事をさせていただくことができました。好きなことをやり続けてきてよかった、辞めなくてよかったなと心から思っています。ハニワの根本は変わらずに、今後も楽しみながら続けていきたいですね。ハニワは、私たちだけじゃなく、ファンの方と一緒に作ってきたと思っています。それに、青春は10代だけのものじゃないので、20代・30代の方が聞いても楽しめるもの・あの頃の気持ちに帰ってこられるものを作っていきたいんです。そうやって、もっともっとたくさんの方に届いたらいいなと思って、これからも作り続けていきますので、よろしくお願いします!
Gom:素晴らしい!
shito:自分としては、皆さんに喜んでもらいたいという気持ちが一番にあります。そのためにできることは、曲を書きまくること。そうやって、魅力的なエンタメを1つでも多く発信していきたいと思っているので、これからのHoneyWorksにもぜひ期待していてください。
Gom:10周年の集大成的な映画ができたという自信があります。10周年のその先に進んでいく活力を、僕らもこの映画からもらうことができました。どの楽曲もキャラクターも、原作はHoneyWorksですが、皆さんからのリアクションや感想を受けて、より成長させてもらっている気がしています。これからもHoneyWorksに皆さんの声を届けていただけるとありがたいです。よろしくお願いします!
取材/実川瑞穂
作品情報
■『HoneyWorks 10th Anniversary “LIP×LIP FILM×LIVE”』
2020年12月25日公開予定
●CAST
<LIP×LIP>
勇次郎:内山昂輝
愛蔵:島﨑信長
<あすかな>
海堂飛鳥:藤原丈一郎(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)
苺谷星空:大橋和也(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)
<Full Throttle4>
IV:福山潤
YUI:斉藤壮馬
RIO:内田雄馬
MEGU:柿原徹也
DAI:増田俊樹
田村レイ:沢城みゆき
内田茉優:茅野愛衣
柴崎健:江口拓也
柴崎裕子:堀江由衣
染谷玉五郎:平田広明
染谷多恵:桑島法子
染谷光一郎:土岐隼一
成海聖奈:雨宮天
成海萌奈:夏川椎菜
前田睦:櫻井孝宏
●STAFF
原作・音楽:HoneyWorks
監督:室井ふみえ
脚本:成田良美
キャラクターデザイン:大島美和
色彩設計:小宮ひかり
美術監督・美術設定:二嶋隆文
撮影監督:佐藤光洋
編集:木村佳史子
音響監督:長崎行男
音楽:日向 萌
制作プロデューサー:松尾亮一郎
制作:CLAP
クリエイティブディレクター:関本亮二
バーチャルライブ制作:クリプトン・フューチャー・メディア
エグゼクティブプロデューサー:紀伊宗之
企画・プロデュース:斎藤俊輔
プロデューサー:小出大樹
製作:LIP×LIP Movie Project
配給:東映
●主題歌
オープニング主題歌:「LOVE&KISS」LIP×LIP(勇次郎・愛蔵/CV:内山昂輝・島﨑信長)
エンディング主題歌:「この世界の楽しみ方」LIP×LIP(勇次郎・愛蔵/CV:内山昂輝・島﨑信長)
●WEB
公式サイト:https://www.honeyworks-anime.jp
上映劇場情報:http://theaters.toei.co.jp/TheaterList/?PROCID=02663
公式Twitter:@HoneyWorksMovie
©2020 LIP×LIP Movie Project
Source: PASH! PLUS