浅草の崩し顔は動かさないともったいない―TVアニメ「映像研には手を出すな!」キャラクターデザイン・浅野直之が語る作品の魅力

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湯浅政明監督5年ぶりのTVシリーズとなる、TVアニメ「映像研には手を出すな!」。芝浜高校映像研の浅草みどり、金森さやか、水崎ツバメがそれぞれの持ち味を生かしながら、アニメーション制作を通して最強の世界(想像の世界)を形にしていく物語は、本日3月22日の放送でついに最終回をむかえます。本年1月に放送が開始されるやいなや、ストーリー、キャラクター、キャスト、演出……とさまざまな要素が高く評価され、大きな話題を呼んでいる本作ですが、その魅力的なキャラクターたちはどのように生み出されたのでしょうか? アニメのキャラクターデザインを担当した、浅野直之さんにお話をうかがいました。

――本作の制作に参加された経緯を教えてください。
浅野 湯浅さんの「きみと、波にのれたら」に参加しているときにウニョンさん(チェ・ウニョンプロデューサー)にお声がけいただいたのがきっかけでした。湯浅さんの作品では「ピンポン THE ANIMATION」にも参加させていただいていますので、その辺りのご縁なのかなと。
――原作を読んでの感想を教えてください。
浅野 原作を初めて知ったのは、「TV Bros.」でマンガ賞「ブロスコミックアワード2017」大賞を受賞しているのを見て「月刊!スピリッツ」を手に取ったのがきっかけでした。読んでみて「これは”作オタ(作画オタク)”の人が描いている絵だ」とすごく親近感を抱きましたね。漫画というより、アニメ寄りの絵だなと。同時に、アニメの表現を漫画に落とし込むのがすごくうまいので、ちょっと危機感も覚えました(笑)。
――そんな本作のキャラクターデザインを手がけるにあたって、初めにどんなことを心がけられましたか。
浅野 お話をいただいて最初に思ったのは「アニメっぽいタッチで描かれている作品なので、やりやすいだろう」というものでした。”アニメ用に(デザインを)起こす”というよりは、”原作の絵をそのまま動かす”だけでアニメとしても成り立つだろうと。原作は、デフォルメとリアルのバランスがすごくいい作品なんです。たとえば、金森の目のアップのコマでは影が入ってとても立体的だったりする一方で、ギャグシーンや引いたカメラワークのカットでは、線を少なくデフォルメしています。そういう風に、描き方のストライクゾーン(≒レンジ)がとても広いんですよね。僕はかっちりしているより幅が広い作品の方がやりやすいタイプなので、肩の力を抜いてやれそうだと感じました。ですので、デザインの際に自分なりのテイストを入れようとか、アレンジをしようと考えることもなく、とにかく原作のテイストを忠実に再現することを念頭に起きました。
――湯浅監督から、キャラクターデザインの方向性などに関してのディレクションなどはありましたか?
浅野 最初の段階で話したのは「動かしやすくしたいから、線は少ない方がいい。影もシンプルにしてほしい」というものでした。また、当初のデザインはみんなもうちょっとふくよかで原作に近かったのですが、湯浅さんの要望でキャラクターの手足を原作より少し細くして、すとんとしたシルエットに仕上げました。生々しさがない、カートゥーンのような方向に寄せたいとのことでしたので。
また、浅草たちが通う芝浜高校は自由な校風で、しかもさまざまな人種の生徒が通っているので、アニメでもそういう雰囲気を前面に出していきたいと言われまして、雰囲気をつかむためにまずは芝浜高校に通う一般生徒を男女それぞれ描きました。”インターナショナルスクールにいそうな感じ”を自分なりに考えてデザインしたのですが、これも楽しい作業でした。
――原作・大童澄瞳さんのキャラクターの魅力はどういうところにあると感じられましたか?
浅野 第一に、造形がすごくかわいい。特に浅草の崩し顔がとても魅力的で、アニメでもこれをうまく描かなければならない、動かさなければもったいないと思いました。それでいて、あざとさがないんですよね。かわいいキャラって、(制作者の)かわいくしようとするいやらしさが透けて見えてしまったりするじゃないですか。大童先生の描くキャラクターには、そういう下心が感じられないのがすごく好きです。キャラクターの内面に目を向けると、”悪役”はいるけど”悪人”はいないというのも魅力的です。みんな素直だから、読んでいてイヤな気持ちにならない。
――描いていて楽しいキャラクターはいましたか?
浅野 金森ですね。だからといって、金森だけよく描こうという意識は持たないようにしているのですが、第1話のオンエアが終わった段階でもう「金森がいいですね」と言われましたので、どこかでそういう(金森を魅力的に描きたい)欲が出てしまったかもしれません(笑)。浅草のような少年っぽさを持った女の子や、水崎のような美少女はこれまでに他の作品でも描いたことがありますが、金森のようなタイプは初めて描いたのではないかと思います。背が高くて、だるそうで、目つきが悪くて……独特ですよね。でも、それが描いていて楽しい。こういう子を”実は美人なんだ”と思わせられるように描くのは、シンプルにかわいい子やイケメンを描くよりもやりがいがあります(笑)。
――反対に、描くのが難しかったキャラクターはいましたか?
浅野 水崎ですかね。美少女という設定ですが、原作ではシンプルかつシャープに描かれていますので、記号的に描くとそのイメージからズレてしまいます。かといって、原作のテイストをそのままにアニメに落とし込むと、かっこよくはなるのですがなかなかかわいらしくはならなくて。そのバランスに苦心しました。第1話の作業中にも、これは原作でもまだ見せたことのないよう表情も描かないとダメかもと感じたのですが、原作のイメージから乖離しないよう、いかに表情豊かに描くかに苦心しました。シルエットに特徴がある浅草と金森の間で埋没してしまわないように、実はキャラクターデザインの段階で原作よりもスカートを少し短めに設定させていただきました。
――キャラクターデザインをされる際に、普段から心がけておられることはありますか?
浅野 原作モノの場合は、やはり原作の絵を活かすことです。”原作のコマがそのまま動いている”と感じられるものにできれば、原作ファンの方、原作者の方に喜んでいただけると思いますので。ただ、動かすために線を減らさざるを得ないこともありますので、それはなかなか難しいのですが……。あとは、各キャラクターのバックボーンを深堀りすることでしょうか。たとえば、作品にある悪役がいたとして、作中で悪い面しか描かれていなかったとしても、そのキャラにはきっと違う一面もあるはずなんです。キャラクターデザインをする際はなるべくそういうバックボーンに思いをめぐらせるようにしています。見てくださる方にそれがどこまで伝わるものかは分かりませんが、ただ”悪役が怒る”というのと、”こういうバックボーンを持っているキャラが、それゆえにこのように怒る”というのでは、描きやすさも、描き方も大きく変わるんです。
――その他、オンエアを振り返ってみて感じたことはありますか?
浅野 自分は第1話以降、本編にほぼ関われていないので偉そうなことは言えないのですが、第2話以降も各話のスタッフさんたちが尽力してくださったおかげで、どの話数も見応えのある内容に仕上がっていると思いました。第1話は、絵コンテ・演出の本橋さん(本橋茉里さん。演出は湯浅監督と共同)の手腕が本当にすばらしいものだと感じました。本橋さんは人間芝居、繊細な表情を描ける人ですので、湯浅監督のテイストととてもいいバランスで合わさっていると思います。実は第1話は、ほとんど全カットに本橋さんからの修正が入るレベルだったんですよ(笑)。冒頭では幼いころの浅草が1人で家にいてアニメを見ているシーンがありますが、そこだけでも浅草の表情、体をくるんでいる毛布のかかり具合、それを持っている手の芝居とか……本当に枚数が多くて、これを全部やるのかと(笑)。でも、完成したフィルムを見たら本当にすばらしかったので、むしろ不満に思ったことが申し訳なくなりました(笑)。
――第1話放送後、視聴者たちからも絶賛の声が相次ぎました。そうした声はご覧になられましたか?
浅野 分かりやすい美少女がいるわけではなく、派手なアクションをウリとしているわけでもない。演出も基本的な部分は高校生活の範疇で……と、分かりやすい要素は弱めの作品なのかなと感じていましたので、ビックリしました。普段、自分が関わった作品を完成後に見直すことはあまりないのですが、この作品はもう3回くらい見直してしまっています。何度見直しても、なぜおもしろく感じるかがうまく言語化できないような不思議な感覚がありますね。もしかしたら、視聴者のみなさんも同じように感じられたのかもしれません。湯浅さんのスタイルと、大童さんの原作の魅力がすばらしい相乗効果を生んでいると思います。
――浅草を演じる伊藤沙莉さんのハマりっぷりも、本作が広く受け入れられた要素のひとつであるように感じられます。
浅野 それは自分もとても大きいと思います。初めて伊藤さんの浅草を聞いたのはおそらくPVだったと思いますが、実は、聞いた瞬間は自分のイメージとは違うなと思ったんです。でも、それも最初だけで。浅草の”人と距離を取っている”感じが見事にお芝居に乗っていて、これ以上の人選はないだろうとすぐに思うようになりました。もちろん他の方々も同じです。キャストの方たちは全員、本当によく合っていると思います。
――それでは最後に、本作に参加して感じたことをあらためてお聞かせください。
浅野 アニメにしても映画にしても、さすがにそろそろネタ切れといいますか、”出尽くしてきた”感もどことなく感じられる今日ですが、そんなことはないのだと思える作品に携われたと思っています。作中で浅草や水崎は何の変哲もないところにすぐおもしろいものを見出しますが、そういう姿から、自分が見方を変えれば、見え方はいくらでも変わるのだと気づかされました。最終話は自分もま だ見られていないので、見るのが楽しみですし、こうして記事に取り上げていただけるのも各話のスタッフさんたちの苦労のおかげですので、皆さんに感謝しかないです。
――6月24日(水)には、全話収録のBlu-ray BOXも発売されます。
浅野 ぜひご覧いただいて、この作品をきっかけに将来アニメ業界にきてくれる人が出てくれたら嬉しいですね。その後、浅草たちよりもずっと大変な思いをされるかもしれませんが……(苦笑)。
Source: WebNewtype
浅草の崩し顔は動かさないともったいない―TVアニメ「映像研には手を出すな!」キャラクターデザイン・浅野直之が語る作品の魅力

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