劇作家・脚本家の中島かずきさんが縁のある役者と向き合う対談集「中島かずきと役者人」が4月10日(金)に紙&電子版が発売されました。発売を記念して、月刊ニュータイプにて掲載された連載版をwebNewtypeにて期間限定公開します! なお、単行本は連載時より2倍以上の文章量! それぞれの〝役者人〟との対話をお楽しみ下さい。
■ 役者人:粟根まこと
【あの作品に出ていた!? 約30年前の出演作】
中島 粟根さんは、アニメを見るの?
粟根 昔はよく見てましたよ。学生時代ぐらいまではわりと。
中島 40年前じゃないですか(笑)。
粟根 40年は言いすぎ。30年前ぐらい(笑)。いちばん見ていたのは予備校時代かな。夕方の時間帯のアニメをよく見てましたよ。「機動戦士ガンダム」の後のロボットアニメブームで、「聖戦士ダンバイン」とかは覚えてますね。
中島 ちょうど大阪でSFコンベンション「DAICON Ⅳ」が開かれたころだよね、そういえば粟根さんはDAICON FILMの「八岐之大蛇の逆襲」に出てるんですよ! 最後に出てくるアナウンサーが粟根さんだなんて全然知らなくて。当時、ビデオソフトをボケッと見てたら、最後にいきなり出てきてびっくりした(笑)。実は劇団☆新感線とガイナックスにつながる人脈とをつないだ最初の男は粟根まことなんですよ!
粟根 (笑)。そこから話をしますか。当時僕は大阪大学のSF研にも入っていて、SFファンのつながりもあったんです。そのつてで「ロケがあるから」って手伝いに呼ばれたら、監督の赤井(孝美)さんが「君、役者もやってるんだって? ラストにアナウンサーの役があるから」と出してくださったんです。
中島 なんでそっち側にいかなかったんですか? 舞台のほうがおもしろかった?
粟根 そうですね、自分は結局、自分の大学の劇団から劇団☆新感線に移って、どんどん忙しくなっていって、大学もやめちゃうので。
中島 それが30年後になって、ガイナックスの流れをくむTRIGGERの「キルラキル」にまた出演することになる、と(笑)。
粟根 「キルラキル」も呼んでいただいてうれしかったです。これまでも「天元突破グレンラガン」で、上川隆也くんと池田成志さん。「プロメア」では松山ケンイチくん、早乙女太一くん、堺雅人くんと新感線にかかわりのある人たちが呼ばれているんですよね。
中島 そう。あと新谷(真弓)さんもね。
粟根 そうそう。そういう流れで僕もお仕事をいただけて。アニメの声というのは、それまでにもちょっとだけやったことあったんですが、本格的に出演するのは「キルラキル」が初めてで。なので、どういうスタンスで取りかかればいいのかということを音響監督の岩浪(美和)さんに相談してやらせていただきましたね。ただそのときは、僕が舞台に出ていたので抜き録りだったんですよ。ほかの方のお芝居がすでに全部入っている状態だったので、お芝居的にはそこに当てはめればよいので、そこは楽をさせてもらった感じでした。
中島 芝居の流れがわかるから、その芝居に対して返していけばよかったと。
粟根 そうです。皆さんがつくってくれた流れに乗っていけばよかった。あとは、自分が演じた宝多金男という男をどれだけ暑苦しくできるかっていうことだけを考えて。
中島 そう、暑苦しい男なんだよね、宝多は。だから本当は、粟根さんっていうよりは、ふだんの新感線だと右近(健一)がやりそうな役で、それを粟根さんに振ってるんだよね。
粟根 でも、大阪弁のキャラクターということでしたからね。大阪弁もその場で中島さんと岩浪さんと打ち合わせして、言い回しを変えたりして。
中島 よりどぎついほうがいいよねとかね。
粟根 猿投山に「ボンボン」て言うのは僕の提案でした。だから楽しかったんですよ。作品もおもしろくて、いまだに「キルラキル」の宝多金男をやっていたって言うと、「あー! 見てました」って言われるときがあります。
中島 そういえば東京国際映画祭で「ヒックとドラゴン」のディーン・デュボア監督と登壇したんですけど、通訳の女性が「私のTwitterのアイコンは宝多金男です」って。
粟根 あら!! それはすごい。宝多は一度登場した後に、だいぶ間が空いて後半に再登場するんですけど、このときは皆さんとそろって収録することができたんです。それが年末で、「忘年会やります」っていうことで、スタジオのそばの料理屋さんを貸し切って宴会が開かれて。僕もそこに参加させてもらいました。宴会ってけっこううるさくなりますよね。でもその忘年会って声優さんばかりだから、そこここからめっちゃいい声が聞こえてくるんですよ(笑)。
中島 あはは(笑)。檜山(修之)さんとか、ホントにいい声で、ふだんからそうだものね。
粟根 稲田(徹)さんとかね。あと、女優の皆さんもものすごくいい声で。
中島 そう、朴(璐美)さんとか小清水(亜美)さんとか(笑)。
粟根 みんな声が通るから、向こうのテーブルで話している声もスースー耳に入ってくる。
中島 (笑)。声優さんといっしょに収録してみてどうでしたか?
粟根 すごいですね。「キルラキル」の後にも「B: The Beginning」っていうアニメに出演したんですが、やっぱりプロの声優さんは、すごいなと思いました。台本と絵を同時に見ながら、感情も乗せてしゃべるし、他人との距離感もちゃんと取る。絵が急にコメディタッチになった瞬間とかも、パンと切り替えられる。僕ら舞台俳優なんで、つい大声でしゃべろうとしちゃうんですけど、うまい声優さんは大声だけじゃなくて、マイクにボソボソってささやく声も、きれいに通るんですよ。
中島 ウィスパーでもとおる声なんだよね。
粟根 「B」に出演したときは、台本と絵を両方気にすることはできないと思ったんで、セリフも少なかったし、全部覚えて臨んだんですよ。「セリフを覚えていてすごい」とは言っていただいたんですけれど、自分としてはアフレコに不慣れだから、そうやるしかないかなと思ってやったんですけれど。
中島 それはすごい。そういえば「プロメア」も見てくれたそうで。
粟根 4DXで見ました。もう熱いやら水しぶきが出るやら(笑)。で、「プロメア」を見て中島さんにとって演劇とアニメの違いがどの辺りにあるかわかったような気がしましたね。たとえば松山くんが演じたガロって「髑髏城の七人」の兵庫というキャラクターと心意気も近いし、セリフも似てるところがある。
中島 ああ、兵庫か。松山くんだから捨之介だと思ってたけど、確かにガロの性格は兵庫に近いかな。
粟根 中島&いのうえ(ひでのり)、ともに活劇が好きで、拳と拳で心を通わせる物語を描いてますけど、舞台でそれを正面からやろうとすると、生身の人間なので、いろいろ無理が生じるんですね。だから中島脚本の舞台の主人公はスカしているんです。「髑髏城の七人」で言うと、捨之介は比較的スカしたキャラクターでしょう。戦隊もので言うなら、レッドじゃなくて、ブルーがセンターにいる感じ。でもそれがアニメになると、レッドが真ん中になる。
中島 なるほど。シモン(「天元突破グレンラガン」)しかり流子(「キルラキル」)しかり、ガロしかり。その辺りは大体全部橋本じゅんがやりそうな役ってことだよね。
粟根 そう。つまり橋本じゅんがどれほど熱い男かって話なんだけれど(笑)。中島作品の熱い男を見れば、橋本じゅんだなって思って間違いないんですよ。
中島 うん。で大体、主役は古田(新太)とか、ちょっとやっぱり外す男を置くことが多い。
粟根 そう。後はゲストに来てくれた役者さんで、「偽義経冥界歌」なら生田斗真くん。
中島 生田斗真くんが演じてくれた、義経のキャラはもうちょっと熱い男だけどね。
粟根 けれども、まあばかっていう要素があってレッドっぽくはないでしょう? なので人間でできることをやるのが舞台で、そこが中島さんにとってアニメと舞台の違いなんじゃないかなと。だから中島さんが脚本のアニメを見ると、「役者が演じる」というタガが外れると、どれだけ無茶苦茶になるんだ。この作家はという気持ちに(笑)。……銀河よりもでかい、天元突破?
中島 天元突破グレンラガン。
粟根 あんな超巨大なメチャクチャなサイズ感。「(伝説巨神)イデオン」的な発想じゃないですか。
中島 あれはもう本当に、史上最大のロボットを出そうというコンセプトのもとに出したものだからね(笑)。演劇とアニメの違いでいうと、お客さんとの関係もあると思うんだよね。アニメってTVにせよ映画にせよ同時に大勢に見てもらうんだけど、演劇ってもう少し1対1の関係でできてる気がする。
粟根 そうですね。
中島 劇場に1千500人いても、お客さんひとりひとりの反応がダイレクトに舞台に影響する。そのおもしろさはアニメとはまた違ったものとしてあって。
粟根 わかります。けいこ場で練り上げたものをドンとお客さんの前に置くわけですけど、おもしろいことに、昨日ウケたのになんできょうウケないんだろうってことが普通に起きるんですよね。それはお客さんによって変わるし、日によっても違う。それによってこっちのリズムも変わってくる。舞台って同じことの繰り返しと思ってる方もいるんですけど、そんなことないんですよ。自分としてはそういうのが好きでやってるところはありますね。
中島 そうだよね。そうやって変化するのが舞台のおもしろいところだよね。
粟根 変化ということで言えば、舞台って、けいこ中に急に言い方を変えてみるっていうのがアリなんですよ。それで演出家を説得できれば、「その方向がおもしろいから、その前のシーンの芝居も変えなきゃね」というふうにどんどん変わっていく。粘土をこねながら徐々に形が見えてきて、最終的にでき上がっていくというのがお芝居で、それは本番を繰り返していても変わっていくもので。だから劇団☆新感線で初めて舞台を経験した役者さんにはおもしろい! 興味深い!って思って帰ってほしいなと思っているんですよ。
Source: WebNewtype
粟根まこと登場:単行本発売記念「中島かずきと役者人」連載版期間限定公開