平成30年分のTVアニメを振り返る『平成アニメ備忘録』シリーズ! 今回は平成19年(2007年)のアニメを振り返ります。
この年は、禁酒法時代のアメリカで“不死の酒”を巡る群像活劇『バッカーノ』、任侠の世界を生きる“人魚”との結婚を描いた『瀬戸の花嫁』、最終話から1話へと遡ることでストーリーが分かる“逆再生”構成で話題になった『桃華月憚』、女性ばかりの島に流れ着いてしまった少年の日々を描いた『ながされて藍蘭島』。
そして、4人の女子高生の日常描いた癒し系コメディ『らき☆すた』、巧みな心理描写で野球の面白さが描かれた『おおきく振りかぶって』、近未来で起こる電脳犯罪や都市伝説を描いた『電脳コイル』などが放送されました。
今回は、数ある平成19年に放送されたTVアニメのうち4作をご紹介します!
”ガンダム”による武力介入、戦争の根絶に向けた激闘を描いた『機動戦士ガンダム00』
『機動戦士ガンダム00』は、『機動戦士ガンダム』シリーズ12作品目となるTVアニメで、シリーズとしては初となる複数の時代が描かれた作品で。また、『ガンダム』シリーズにおける架空の歴号“宇宙世紀”ではなく、“西暦2307~”を描いた作品であるため、『ガンダム』シリーズをいらなくても単体で楽しむことができる作品でもあります。2307年というと、私たちが生きている世界(2018年)から289年後を描いた作品……いつか来るかもしれない未来を描いた作品なのかもしれません。
本作の舞台は西暦2307年の世界。人類は枯渇した化石燃料に変わるエネルギー源として、宇宙太陽光発電システム・軌道エレベーターを実用化しエネルギーを得ていました。しかし、これらのシステムは莫大な建造費が必要となり、その恩恵を受けていたのは“ユニオン(太陽エネルギーと自由国家の連合/アメリカ合衆国などで構成)、“AEU(新ヨーロッパ共同体/ヨーロッパ諸国で構成)、“人革連(人類革新連盟/中国、ロシアなどで構成)”ら大国のみ。大国間では冷戦状態が続き、小国は貧困から紛争・内線を繰り返していました。
そんな世界に現れたのが、主人公“刹那・F・セイエイ”らが所属する謎の武装組織・“ソレスタルビーイング(CB)”。彼らはどこの国にも属さず、武力(ガンダム)を持って争う国々に“武力介入”を行うことで“戦争を根絶する”ことを宣言。
かくしてCBは、戦争をこの世界からなくすために、大国へ“武力介入”を実行していきます……とかくと“正義のヒーロー”のようですが、ガンダムという圧倒的武力を用いて攻撃を行っているため、見方によっては“テロリスト”という見方もあります。そのため、この世界での彼らの評価は賛否両論。『コードギアス』でもそうでしたが、“主人公だから正義ではない”ということが描かれている作品ではないでしょうか。関係ないけれど“武力介入”という言葉、めっちゃ格好いいですよね。
このように“ユニオン”、“AEU”、“人革連”ら大国、そして“CB”という各陣営がどのように考え、動き、答えを導いていくのかが見どころ。作品全体を通して“戦争をなくすためにはどうすればよいのか?”という問いかけがなされていますが、その背景には国際情勢や経済問題、宗教などが存在し、国々・組織の立場などが複雑に絡み合ってきます。
もっと細かいところまで掘り下げると、各国・組織にも人々が存在しますよね。例えばユニオンにはグラハム・エーカー、AEUにはパトリック・コーラサワー、人革連にはソーマ・ピーリスといったキャラクターが存在し、しかも魅力的。闘いが進むほどに「もうやめてくれ~」って思うし、魅力的なキャラクターほど退場していってしまうのが辛い。戦争を描いている作品なだけに仕方ないけれど……仕方ないけれども……。たまに飛び出るグラハムの言葉で元気になります。「抱きしめたいな、ガンダム!」は忘れられない名言。
国としての在り方、個人としての生き方が魅力的に描かれている本作。個人的には2期20話“変革の刃”は神回です。
絶望した―! オーケンのOPに心揺さぶられた『さよなら絶望先生』
『絶望先生』は、久米田康治の同名漫画を原作とする学園ブラックコメディ作品。2007年から2009年にかけて全3期が放送されたほか、2008~2009年にはOVAもリリースされました。
本作は、“何事もネガティブにしか受け取れない男”糸色 望(絶望先生)が、赴任先の高校で“何事もポジティブにしか受け取れない少女” 風浦可符香や“アジアのどこかから不法入国した少女”関内・マリア・太郎、多重債務者の少女“大草麻菜実”、包帯まみれの少女“小節あびる”といった癖の強すぎる生徒谷の担任となり、これまた癖の強い学園生活が描かれます。
社会風刺や時事ネタ、毒を交えた言葉遊び、「切望したー!」、「死にたい」と発する病的なキャラクター、大正ロマンな世界観……『さよなら絶望先生』という作品は、アングラな雰囲気が漂いつつも決して暗くならないところば魅力のひとつ。
例えば「死にたい」が口癖の絶望先生。人生や世の中に絶望した時、いつでも死ねるようにと遺書や睡眠薬を詰めたカバン“旅立ちパック”をもち歩き、時には首つり自殺を図ろうとするも、いざ本当に死にそうになると「死んだらどうする!」と激高するなど、決して死ぬことはありません。むしろネガティブな性格が良い意味で働き、人よりも危機察知能力が高かったりします。なかなか死なない(誉め言葉)。
また、本作はOPを大槻ケンヂさん(オーケン)が担当。第1期OP『人として軸がぶれている』、第2期OP『空想ルンバ』、第3期OP『林檎もぎれビーム』と3作ともオーケンが担当しているのですが、歌詞&楽曲のエッジが聴いていてTVアニメを視聴していた当時の筆者(中学生くらい)に痛烈に刺さりました。特に『人として軸がぶれている』の歌詞。
「人として 俺、軸がぶれてんだ」という歌詞が中学生当時のブレまくっている自分を体現しているように感じ、「それならば居直れ! もう ブレブレブレブレブレまくって ふるえてるのわかんねぇようにしてやれ!」にちょっと救われ、「でもきっと 君が居たら変わる?」に“もう本当にそれ……”と心をわしずかみにされました。この当時、アニメばっかり見ていたので筆者のなかで“君”は“アニメ”でした。暗い部屋で、布団をかぶって1人聴いてた思い出です(そういう時期)。OP映像もフェチズムが感じられて素晴らしい。
そして、このコラムを書くにあたって初めて知ったのですが、OP映像でチラリと映る男性の写真、久米田康治先生が生前葬を行った際の遺影なんですね。10年越しくらいに知りました。
熱い展開! 熱い口上! 熱い兄貴! 作品の熱量の高さが凄まじかった『天元突破グレンラガン』
『天元突破グレンラガン』は、ガイナックス、アニプレックス、コナミデジタルエンタテインメント製作のオリジナルロボットアニメ。2007年に放送され、2008年、2009年には劇場版が公開されました。
地上での生活から追いやられ、地下に穴を掘って暮らすようになった人類。ある日、地下の村で暮らす主人公・シモンはいつものように穴掘りをしていると、巨大な顔とドリルを見つけます。その時、村の天井が崩れ、巨大なロボットとライフルを所持した少女“ヨーコ・リットナー”が落ちてきます。シモンは、アニキと慕う“カミナ”、ヨーコとともに巨大な顔に乗り込むと、光に導かれるようにコックピットにドリルを装着。巨大な顔はロボット“ガンメン”となり、勢いのままに地上へと飛び出していきます。
その後、カミナもガンメンを手に入れ、シモンのガンメン“ラガン”、カミナのガンメン“グレン”ふが合体し“グレンラガン”となります。その後、カミナを筆頭に“大グレン団”を結成。地上で人間を襲う“獣人”の本拠地に向けて地上を旅することになります。
とにかく“熱い”展開が多い『グレンラガン』。グレンラガンに搭乗する際は“口上シーン”があるのですが、歌舞伎さながらの見栄、独特の節回し、どれをとってもテンションが上がる格好よさがあります。“口上シーン”はいくつかセリフの種類が好きなのですが、筆者がとくに好きなのは第11話のシモンの口上。このエピソードでは、とある出来事からシモンが復活を果たし、再び歩みだすことが描かれる作中でも随一の名シーンが描かれています。ここでの口上は、決して上手いことを言えているわけではないのですが(五七五ができていなかったり)、拙いながらも、思ったままを吐き出すシモンの姿がものすごく格好良かった。
また、本作の魂ともいえるカミナ(アニキ)の存在感の高さがすごかった。情熱的で常にロマンを追い求めるアニキは、シモンを魂の兄弟(ソウルブラザー)と呼び信頼。引っ込み思案なシモンとは真逆の性格ながらも、弱気になりがちなシモンに「信じろ!」と投げかけつつ、絶妙なコンビネーションで困難に立ち向かっていました。
また、アニキは全身に掘られたタトゥー、愛用の日本刀、上半身裸に腹にはさらしといういで立ちに、父親の形見である深紅のマント&ドクロの指輪をつけており、精神性だけでなく見た目からも“男らしい”キャラクター。アニキが生み出した名言も多く、「無理を通して道理を蹴っ飛ばすんだよ!!」、「逃げてちゃあ!何も掴めねんだよ!」など、情熱的かつストレートな言葉たちは、シモンだけでなく、視聴者の胸に突き刺さるものがあったのではないでしょうか。そして、第8話の衝撃を忘れられない人も多いはず。これは多くは語るまい。
そして、『グレンラガン』といえばOP『空色デイズ』(歌:中川翔子)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか? アニメを知らない人でも知っている名曲ですよね。
「中に誰もいませんよ」――凄惨なエンディングに度肝を抜かれた『School Days』
最後は2007年にTVアニメ化された『School Days』。同名アダルトゲームを原作とするTVアニメです。本作は、学園を舞台にした“ラブコメ”と思ってみていたけれど、回を追うごとに主人公を巡るヒロインたちの愛憎劇が描かれたアニメ史上類を見ない“凄惨な昼ドラ”のような作品でした。
少年・伊藤誠は、通学電車で見かけていた隣のクラスの少女・桂 言葉のことを気にかけていました。ある日、“好きな相手を携帯電話の待ち受け画面にして3週間隠し通したら想いが叶う”という学園に伝わるおまじないを実行したものの、同じクラスの西園寺世界に1日目にして見つかってしまいます。しかし、事情を知った世界は、誠と言葉の仲を取り持つことになり、晴れて2人は交際することになります。ここまでは良かった。
順調に交際関係を続けているように見えた誠と言葉でしたが、次第にすれ違うように。やがて、誠は言葉との関係にイラつきを感じだし、それを世界に相談するように。ついには誠と世界は肉体関係を結んでしまい、堰を切ったかのように誠は他の女子とも肉体関係を結んでしまいます。この時点で誠に弁解のよちがなく、クズとしか言いようがない。とはいえアニメでは、“最低なキャラクター”として描かれており、意図的に嫌な存在として描かれているそうです。原作ゲームではまた違った一面もあるんだとか?
そんなこんなで、数多の女性関係を結んでしまった誠。終盤では世界が妊娠してしまい、堕胎することを提案し、世界に刺殺されてしまいます。その後、誠の遺体を発見した言葉は、誠を装って世界を呼び出して殺害。誠の頭部を抱えた言葉は、ヨットとともに海の彼方へと消えていく……という平成アニメでも類を見ない壮絶なエンディングを迎えます。エンディングで流れる挿入歌『悲しみの向こうへ』(歌:いとうかなこ)がまた悲壮感を底上げしていました。
放送当時は中学生だったこともあり「嫌な話だったな」としか思えなかったのですが、大人になってみるとまた違った感情で見ることができました。作品の内容が凄すぎて意識できなかったけれど、声優さんの演技や作画、楽曲がすごく良かったです。
平成19年の日本はどうだった?
ちなみに平成19年の日本は、第1回東京マラソンが開催、セブンイレブンで新電子マネー“nanaco”が導入、『踊る大捜査線』の舞台になった“湾岸所”が新しい警察署に決定しました。また、東国原英夫さん(宮崎県知事)の「(宮崎を)どげんかせんといかん」、小島よしおさんの「そんなの関係ねぇ」、IKKOさんの「どんだけぇ~」などが流行語に選ばれました。IKKOさんの「どんだけぇ~」ってかれこれ10年は経つことにびっくり。
なお、“初音ミク”が誕生し、『メルト』が生み出されたのもこの年のできごとです。
次回の『平成アニメ備忘録』をお楽しみに!
Source: PASH! PLUS