2024年5月18日に配信開始された愛憎ブロマンス探索ホラーADV『さいはて駅』。配信開始直後から、可愛らしい絵柄とホラーな雰囲気が生み出すギャップ、そしてハルとシオンの関係性が多くの人々を虜にしている。今年4月にはiOS/Android版のほか、追加ストーリーを楽しめるDLCも配信開始となり、新たに多くの人々を沼に落としている人気作だ。
今回、配信開始1周年を前に、2024年8月に発売したPASH!24年9月号掲載のインタビュー記事を特別公開。本記事を読んで気になった方は、ぜひ“さいはて”へと辿り着いてほしい。
自分が考える最高のカップリングで、最高に性癖が詰まったゲーム
――本作を制作するに至った経緯をお聞かせいただけますか?
数年間勤めていたデザイン会社を退職して「さあこれからどうしようか」という休息期間に、人生の棚卸しとして本作を手がけました。実は学生時代からゲーム開発自体は行っていたのですが、いずれも完成せず、社会人になってからも時間が無いからと諦めていました。退職後はイラストレーター兼デザイナーとして独立してみようと、さまざまな依頼を受けてみましたが、どうも心の底からワクワクするような気がせず今後の展望が見えないままで…。
そんなとき、高校時代の友人と数年ぶりに会う機会がありました。お互い近況を話すなかで、数年の間に彼女がデザインを学んだり、アプリゲームをリリースしたりしていたことを知り、そのアクティブさに刺激を貰い、「フリーホラーゲームをリリースしたい」という気持ちが再び湧き上がりました。それから毎日13時間以上、寝る時間や食べる時間を惜しんで作業し約3カ月でリリースに至りました。
――学生時代からゲーム開発に興味を持たれていたのですね。
当時『Unity』というゲームエンジンを使用して、鉄道に乗って子どもの頃の記憶を旅する3D探索ゲームを卒業制作として開発していました。結局未完成のまま終わってしまったのですが、このゲームを開発するにあたって数カ月間自己分析を繰り返し、自分が心の底からワクワクすることや、人生において大切にしている感情は何なのかという指針をハッキリとさせることができました。
『さいはて駅』にはこのエッセンスが多く含まれていますので、このゲームが無ければ『さいはて駅』は生まれなかったと思います。その頃からゲーム業界で働くことに興味はありましたが、なかなか地元を出るという踏ん切りがつかず、デザイナーの道を進みました。
しかし、デザイナーとして働いた経験が個人でゲームを開発し、コンテンツを運用していくということに活かすことができたのかなと実感しています。
――プレイした皆さんの感想などを見ていかがでしたか?
「自分が考える最高のカップリングで、最高に性癖が詰まったゲームを作ろう」と思いながらひたすらひとりで制作していたため、まさかここまで多くの方に夢中になっていただけるとは思いもしませんでした。嬉しい反面恐ろしくもあります。いろいろな方の実況やプレイヤーの皆さんのご感想、考察などを拝見させていただくなかで、新たな発見や改善点もあります。
本当にたくさんの感謝です。ありがとうございます。
――制作にあたって大切にしていたこと、工夫したことはどのようなことでしょうか?
とにかく親切に、遊びやすく、ストレスフリーな設計にしたことです。『さいはて駅』は、探索ホラーゲームでありつつメインキャラクターふたりの掛け合いを思う存分楽しめるのが特徴ですので、想定されるプレイヤー層は、普段ノベルゲームをする方たちやフリーホラーゲームをよく遊んでいる方たちでした。
そうなると、普段ノベルゲームをプレイしている方にとってはRPGツクール製ホラーゲームのシステム(追いかけっこ、謎解き)は、とっつきにくい印象がある可能性があります。それを改善するためにゲーム内や外部ファイルでヒントを用意したり、難易度の調整やノーセーブでのリスポーン機能をつけたりしています。
ラストバトルの追いかけっこが難しいという声はちらほらといただくのですが、演出上緊迫感あるものかつ別のエンドへの分岐点でもあるため、難易度は少し高めに調整してあります。また、ゲームオーバーという概念もストレスになってしまうため排除しています。死亡時にはゲームオーバーという処理ではなく、ストーリーに関わる演出を入れることで、より没入感を高めています。
ゲーム以外の部分ではブランディングを徹底したことです。キャッチコピーやゲームタイトル、ジャンル名を決める際にはさまざまな案を出し、試行錯誤した後に決定しました。具体的には、キャッチコピーである「終電を寝過ごした先は、『さいはて駅』という奇妙な場所でした」には、タイトルとあらすじを含めることで、どのようなゲームなのかをイメージしやすくしています。
また、『さいはて駅』というタイトルは、既存の単語を組み合わせて短い造語を作ることで、覚えやすいものとなるようにしています。デザイン面でも、フォントやカラーリング、テクスチャを徹底して統一し、一目見たときに「さいはて駅だ」と分かるように制作物の展開を行っています。
――ハルとシオンについて、誕生の経緯や制作過程をお聞かせいただけますか?
もともと彼らはソーシャルゲームの着せ替えアバターをモデルにした、いわゆる“うちよそ”の創作キャラクターでした。そこから派生したキャラでゲームを作ろうとし頓挫した後、そのビジュアルと性格を引き継ぎ『さいはて駅』のキャラクターとして確立しました。ハルの自責思考とエゴの強い性格とビジュアルは、初期からほぼ変わっていません。
しかし、初期のシオンはヤンデレサイコパスというぶっ飛んだキャラではなく、宮沢賢治著『銀河鉄道の夜』のカムパネルラから着想を得た「人の為になることをしなければ」という行きすぎた強迫観念を持つ、心の脆い青年というだけでした。構想段階では、ハルを救うために自分の命を引き換えにするという美しい展開が存在していました。しかし、動かしていくうちに何故かどんどんシオンのエゴが強くなってしまい、結果的に現在のドロドロの愛憎ストーリーに変貌を遂げました…。
初期シオンは心理学専攻のオカルトマニアという設定があり、異界駅に来たときに大興奮し、都市伝説の『きさらぎ駅』について熱弁してハルにドン引きされるというシーンもありました。彼らの年齢は26歳ですが、年齢に反してふたりとも幼い考え方をしています。それは意図して行ったものではなく、私自身の未熟な感情の誇張表現による結果なのだろうと思います。
特に主人公であるハルの、仕事や人間関係でなかなか上手く立ち回れず他者との関わりをシャットアウトしてしまうような苦悩や葛藤は、自分自身の後ろ向きな側面を強く投影しています。シオンに関しては、怒りやエゴ、嫉妬心といった強さのある動的エネルギーの感情を投影し、キャラクターとして形成しています。ふたりのメインカラーが青と赤なのもそういった理由があります。
――特に思い入れがあるシーンはどのあたりでしょうか?
(ネタバレ注意)通常ルートで、ハルがシオンを殺害するシーンです。いままで優位に立ち続けていたシオンがガタガタに崩れて、弱者のはずのハルに憎悪を向けられて殺害される展開は、とんでもなくお気に入りです。殺害方法や動機こそ異なりますが、プロトタイプの時点でこの展開は決まっていたものでした。このときに、悲壮感を演出するための工夫を施しています。
ひとつ目は、プレイヤーにただひとつの選択を選ばせ続けること。ふたつ目は、軽快なBGMを使用したことです。アントニン・ドヴォルザーク作曲『ユーモレスク』を使用させていただいているのですが、この楽曲は鉄道好きであるドヴォルザークが汽車に乗っているときに思いついたものだという話も、選曲の理由のひとつです。
ラーメンを一緒に食べにいった、という過去回想のほっこりシーンもお気に入りです。先ほど挙げたシーンとの落差を付けることで、よりプレイヤーの感情を乱すよう設計しています。
――では、制作にあたり苦労したことは?
全体を通してプレイしたときにシナリオの矛盾が無いか、バグは無いか、ゲーム実況をした際の文章読み上げのテンポはどうか、感情体験はどうかなどといった細かい点の調整です。テストプレイ・最終調整は友人たちに協力してもらい、リリース直前の約1週間で行いました。その期間で最終局面やエンディングのシナリオを大きく変更し、ハッピーエンドの追加といった大改造を経て、滑り込みでリリースに至りました。
――最後にメッセージをお願いします。
本作を楽しんでくださっているすべての方々、誠にありがとうございます。この記事を読んで興味を持ってくださった方も、ホラー要素に抵抗が無ければぜひ遊んでみてください。小ネタをたくさん用意してありますので、ご自身で探索して楽しんでもらえたら嬉しいなと思います。最後になりましたが、ファンアートたくさん待ってます!
■DATA
制作=びぶ(X:@ruuya1124)
HP=https://saihateeki.studio.site/
ジャンル=愛憎ブロマンス探索ホラーADV
対応機種=PC/iOS/Android
価格=PC版/無料、iOS/Android版/100円
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