【アニメ『時光代理人』GW企画】並々ならぬ“光”へのこだわり。丹治匠さんによる美術解説

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 2021年4月よりbilibili動画にて配信され、わずか4カ月で世界での総再生回数1.6億回を突破したオリジナルアニメーション『時光代理人 -LINK CLICK-』

 本記事では『PASH!』5月号に掲載された美術解説の一部を特別に掲載します!

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『時光代理人 -LINK CLICK-』美術解説

「アニメーション美術ですべてを決めるのは“光”だと思っています」

 『君の名は。』や今年公開予定の『すずめの戸締まり』など、新海 誠監督作品で美術監督として活躍していることでも知られる丹治さん。

 「オシャレな作風を目指す本作では欠かせない存在だった」とリ監督が明かしたキーパーソンに、美術におけるこだわりをお聞きしました。

時光写真館1階:ソファのある部屋

 リさんからは時光写真館について、『ふたりで喋れる開放的な広いスペースが欲しい。そこはガラス越しに緑が見える、爽やかな感じにしたい』」というオーダーがありました。そこで取り入れた要素が、日本に昔よくあった写真館。

 中国はどうか分からないのですが、日本には写真撮影における露出のために、光を取り込める天窓付きの写真館があったんです。そのため写真館奥の部屋は、昔は写真を撮るためのスペースで、今はソファを置いて寛ぐ場所にしている……という設定になっています。

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時光写真館がある街

 古い街並みのモデルをいくつかご提案いただいたなかに、(福建省にある)廈門(アモイ)があって、その古い街並みを参考にしています。時光写真館は街のなかでもとりわけ古い建物で、ともすれば人に渡ってしまいそうな雰囲気があったほうがいいと考えました。街の景観はやはり日本のものとは違うため、気を配った部分です。

 例えば第1話でエマのオフィスから見える都会のビル街も、中国のものは日本よりさらに大きい。中国には僕自身何度か行ったことがあるので、その際目にして自分のなかに残っている風景を引き出しながら描いています。

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空の描写

 空の色も気をつけた部分です。中国では都会の空なら少し曇った印象にするなど、また田舎ではハッキリとした青空までにはしないけれど、都会より鮮やかにしています。

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ルック開発は本作ならではの挑戦に

――丹治さんが美術監督として、本作に参加されることになった経緯からお聞かせください。

 まず僕がこの作品に参加したのは、3年ほど前になるかと思います。もともと監督のリさんとは、絵梦さんのお仕事などで以前からいくつかプロジェクトをご一緒していて、顔見知りの間柄でした。

 でもそもそも当初は美術監督ではなく、美術設定とルック開発をお願いしたい、というお話で。特に、時光写真館やその周りの街を作ってくれないか? と。そうして制作を進めるうちに、美術監督もやってもらえないか? とご依頼をいただきました。

――ルック(アニメーションにおける画面上の見た目のこと)開発では、どんな作業をされたのでしょう?

 まずリさんは、「よくあるアニメーションの美術背景とは違うものをやりたい」と考えていたんですね。そのうえでリさんのなかには、油絵っぽいタッチとパステルっぽいタッチの2つのイメージがありました。

 僕はどちらかといえば、パステル風のほうがこのアニメーションにマッチすると思ったので、まず主人公たちが暮らす時光写真館の美術ボード的なものをそのタッチで描きました。最終的にその方向性が採用され、本作の美術背景はパステルカラーの線を使用するなど、一般的なものとはちょっと違ったザラっとした見た目に仕上がっています。このほかにも、直射日光がどう入るかなど、光源にこだわってルック開発を行い、美術設定も作っていきました。

――本作ではどんなことに挑戦されましたか?

 挑戦したのは、やはりルック開発です。もともとパステル調の描き方をやってみたいとは思っていたのですが、これまでそれが実現できる作品がなくて。やはりしっかり描かないとダメ! という現場が多いのですが、僕はもっと大胆なほうがいいんじゃないかなという想いがありました。だから本作のルック開発は、今までにない挑戦でした。

――他には具体的にどのような作業を行われていますか?

 イメージボードというか、カラースクリプト(各シーンにおける作画作業のために、色彩や光源を絵で示した設計図)のようなものを、全話分描いています。レイアウトがまだない段階で、コンテから主要なショットを抽出し、ライティングなどをあらかじめ決めるために、絵を作っているんです。

――丹治さんが描かれた資料を拝見したところ、一般的なアニメーションで作られる美術設定類よりもはるかに数が多い印象を受け、驚きました。

 僕は日本でも映画はやっているものの、TVアニメ作品には関わってきていないので、普通の感覚が分からなくて。普通より多いんですかね?(笑)

――リテイクを受けた部分はありましたか?

 リテイクはあまりなかったのですが、カラースクリプトを描いていたときに、鮮やかな色味の方向へ行ったことがあって、「もう少しシックな色彩にしたい」とご指摘いただきました。日本作品的な感覚だと空を濃い青にしがちなんですけど、このあたりは軌道修正しました。そのほかはわりとお任せだった気がします(笑)。ストーリーがいいので、そこに引っ張られて描いていきました。

中国のアニメーションは日に日に発展している

――丹治さんの手掛けられる美術は、温かみがあって淡い色使いも美しいと感じるのですが、ご自身が思う自分らしさとはどんなところでしょう?

 光ですね。光を明確にしないと、あまりいい絵にならない気がするんです。アニメーションの工程において、光源を明確にしないまま制作が進んでしまうことがよくあって、美術としても曖昧な光の空間を描くしかなく、そうなるとテンプレ的になってしまいがちで。僕はそれが好きではないんですよ。光源はキャラクターにも影響するので、本来美術の段階ではなく、作画打ち合わせなどでキャラクターも含めて決めなければいけないんですけど。

 朝の光なのか、昼なのか、夕方なのかで色も変わってきますし、時間帯が変われば光が入ってくる角度も変わってきます。夜も電灯なら蛍光灯なのか白熱灯なのかで違いますし。そう考えると、すべてを決めるのは光なのかなと。だからどこかの段階で、光を明確に決めたいというのは、いつも思っていることです。本作でもそれが難しい部分では、キャラに影響のないところに美術で光を入れるようにしています。

――同じく美術監督である朝見知弥さん、ジュー・リープーさんとはどんなやりとりをされていましたか?

 僕が他作品も並行して行っていたため、美術監督の作業としては第1話だけ最終的な絵まですべてチェックし、こういうスタイルで行きたいというのを示して、第2話からはお任せしていました。リモート作業だったので、実際現場に行ってスタッフの方々とコミュニケーションを取るということもなく、上がってきたものを修正する形だったんですけど。

 でも朝見さんとは場所が近いのもあって直接お会いしたり、オンラインで話したりしてやりとりしていました。温和な方で、僕が作った設定等に則って制作に当たってくださったなという印象です。またジューさんは1週間ほど日本に来てくださって、僕の事務所に通いながら方向性をお話ししたり、やり方を学んでいかれたんです。

――わざわざ日本までいらっしゃるなんてすごいことですよね。

 このことが象徴しているように、今中国のアニメーションはどんどん発展を遂げています。まだ日本のほうがアドバンテージがあるような雰囲気も漂っていますが、中国でもものすごく面白い作品が生まれ、技術力も上がってきているんです。ジューさんを見ていると、こうやって中国のアニメ業界の方は学んでいくんだなと思いましたし、本作はそれが表れた作品のひとつだと感じます。日本のみなさんにも、ぜひ中国発の本作をご覧いただきたいです。

Blu-ray&DVD vol.1&vol.2 発売中! Vol.3は5月25日発売予定

 アニメ『時光代理人 -LINK CLICK-』のBlu-ray&DVDが好評発売中です。完全生産限定版には、vol.1~3のいずれにも三方背BOX、特製ブックレット、特典映像が付属します。Vol.3は5月25日に発売予定です。

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アニメ『時光代理人 -LINK CLICK-』公式サイト
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(C)bilibili/BeDream

Source: PASH! PLUS

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