細田守監督 新作映画『果てしなきスカーレット』「今、この時代を生きる若者たちが、未来を肯定する希望へと繋げてほしい」

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 『時をかける少女』『サマーウォーズ』『竜とそばかすの姫』など数々の名作で時代を彩ってきた細田守監督の最新作『果てしなきスカーレット』が、ついに11月21日に公開される。『時をかける少女』から19年。細田監督が描き続けてきた“時間”“絆”“成長”という壮大なテーマは、本作で新たなステージへ。どこまでも深く広がる心の世界を舞台に、観る者の感情を鮮やかに揺さぶる。今回は、そんな細田守監督に『果てしなきスカーレット』誕生までの物語、そしてそのなかに込められた想いを語っていただいた。

 本作の主人公は、国王である父を殺した敵への復讐を心に誓う王女・スカーレット。≪死者の国≫で目覚め、それでも復讐の戦いに身をゆだねながら旅を続け、現代からやってきた看護師の青年・聖と、時を超えた出会いを果たし、彼への信頼と愛情に心動かされ変化してゆく感動の物語。「生きるとは何か?」という本質的な問いを観るものすべてに突き付ける、最初から最後まで目が離せない圧巻のストーリーです。

★メインカット①

――この物語は≪復讐≫が物語の軸となっていますが、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

 この話を考え出したのは2022年の3月頃になります。当時はコロナ禍にあり、世界はコロナというウイルスに対して一致団結していたように思っていました。ところが2022年、それが終わりかけたタイミングに世界のあちこちで戦争が起こり、世の中がカチッと悪い方向に変わった感覚がありました。日常だと思っていたものが崩れていく様子を毎日ニュースで僕らは知ることになる。自分自身が生きていること、過ごしている世の中、そして、今のこの平和というものは非常に危ういものだとショックを受けました。平和ではない世の中をどうやって生きていくべきなのか、ということの答えを、世界中の人が求めている。みんなどうしたら争いが解決するのか、どうしたら僕らは安心して生きていけるのか、という答えをみんな必死に探している。
今、作品を作るなら、そういうみんなの切実な気持ちに対し、向き合って映画を作るべきじゃないか、というところから『果てしなきスカーレット』という作品を想像したんです。

★メインカット②

――ストーリーを組み立てていくなかでの課題はありましたか?

 世界で起こっている出来事を見ると、深い遺恨や復讐心が次々と生まれてしまう状況だと感じています。『復讐』をすれば『報復』がある。その連鎖は終わらない。どこかでそのループから抜け出さないといけないけれど、簡単に抜け出せるような甘いものではない。映画の中で『復讐』せざるを得ない状況に主人公が追い詰められたら、あるいは僕らが追い詰められたとしたら、どのような行動をとるべきなのか? 頭では『復讐』のループを断ち切らないといけないと分かっていても、感情的にそんなことが可能なのか? そんな課題を突き付けられた気がしました。それで≪復讐の物語≫を作ろうと思ったんです。

――俳優、声優共に実力派揃いの豪華キャストですが、その方達の演技を受けて、アニメーションにした時の変化はありますか?

 今まではアフレコ(映像が完成した後に声優がキャラクターの口の動きや映像の動きに合わせてセリフや音声を収録)だったんですが、今回はCGの技術などの関係もあって、初めてプレスコ(声や音楽を先に収録し、その後収録した音声に合わせて映像を制作)で作ったんです。最初にプレスコをしたのがクローディアス役の役所広司さんだったんですよね。もう、すごいんですよ、最初から。ものすごいクローディアスの表現で、力強さと憎らしさとズル賢さと哀れさと……その表現があまりにすごくて、録音を聴きながら鳥肌が立ったのを覚えています。声だけでこの映画のテーマを表現して頂いて、これはプレスコで表現できるものなのかって、ちょっともう無理なんじゃないかって思いました(笑)。
 絵でこの芝居のすごさを表現できるのかなって不安になるぐらいに。で、役所さんの後が芦田さんで、その後が岡田さん。このふたりも、役所さんの演技を聴いてかなりプレッシャーを感じていたみたいです。でもそれもあってなのか、その結果おふたりの演技も素晴らしくて、だからこそ、これをアニメーションで再現できるのかって、一層不安に思ったんですが、実際制作が始まったら、アニメーターの方達も負けていませんでした。すごい細かくアニメーションで芝居を作り込んでくれて、声の芝居についていくっていうことを繰り返し何度もやっていって、アニメーターの方達もすごいなって感動しました。なので、セッションのように、互いに極限のものを引き出せたんだと思います。

――ヒロインの年齢を19歳に設定した理由はあるんですか? また、スカーレットの名前の由来は?

 19歳という設定にしたのは、主人公のモデルとなった人物のエリザベス一世が、ちょっと正確ではないかもしれないんだけど、そのぐらいの年に即位しているからかな。スカーレットの名前の由来は、力強い主人公にしたいっていう想いがありましたね。それこそ、スカーレットっていう名前はだいぶ昔からあって、6、7世紀にはもうその名前があったみたいです。強さのある彼女にピッタリな名前だなって思ってます。

――映画のなかで、死後の世界が描かれていると思うのですが、そういった世界をどのように作り上げていきましたか?

 今回、地獄をどうやって表現しようかって思った時に、日本美術の研究者の人と話をする機会があったんです。その方に、日本の地獄絵図って、昔の人はどう思って描かれたんですかね? って聞いたところ、「彼らは地獄を描いているんじゃなくて、現世を描いてるんですよ」って面白いことを言われたんですよ。僕らは現世があって、地獄があると思ってるじゃないですか? ではなくて、実は現世の苦しさを描いたものが地獄なんだって。それを聞いたときに、なるほど! って膝を打つような感覚になりました。この現世が地獄だと思っている人にとってはここは地獄 だし、そう思っていない人にとってはそうじゃない。つまり、ここで描く死後の世界とか、生と死が交わる場所って言うのは、おどろおどろしいものやファンタジックに描くのではなく、むしろ現世として描くべきだって思ったんです。今このときも、世界では地獄のような紛争が起きている。それって現世にある地獄ですよね。そういうことを考えながら、ロケハンではヨルダンやイスラエルにも行きまして、そこでの人々のリアルな暮らしや、かつての歴史に触れて学んだことで、映画の中にも色濃く反映できたんだと思います。

サブ④

――≪復讐劇≫というテーマがひとつあるうえで、≪赦し≫とうい言葉が強調されていましたが、それを濃く出されている理由はありますか?

 映画のベースになっている復讐劇の元祖、シェイクスピアの『ハムレット』を読むと、亡霊となった父親が「赦すな」って言うんですよね。なのでそこから復讐劇が始まるんですが、でもそれを逆のことを言ったら、ものすごく悩むんじゃないでしょうか。「赦すな」って言うほうがわかりやすいじゃないですか。だって、憎い相手を赦せるなんてなかなかできるもんじゃないでしょう。けれど、そうしていたらいつまで経っても終わらない。だからって簡単には赦せない。でもそうすると、人生をずっと復讐に囚われてしまうんですよね。もし自分の娘が僕の為に復讐をするって言うなら、間違いなく「やめろ」って止めますよ(笑)。復讐をしようって思ってくれる気持ちはありがたいけれど、自分の復讐を果たすよりも、娘の人生を大事にして欲しいって、絶対にそう思います。復讐が怖いなって思うのは、ずっとそれを想っていると、それだけであっという間に人生が終わっちゃうんですよね。果たしてそれでいいのかなって。自分の愛する人がそうなっちゃうのは辛いですよね。だからこそ、そこでもう一度立ち止まって、≪赦し≫とはなんなかを、皆さんそれぞれに考えてみて欲しいかな。

――この映画には、どんなメッセージや想いが込められているのでしょう?

 今までこういった≪復讐≫をテーマにしたことはなかったんですが、報復の連鎖の後には何が残るのだろう? ということを考えながら作りました。俗に復讐劇って言うと、まあ非常にエンターテイメントと言うか、映画の王道だと思うんですよね。憎むべき敵を倒して、爽快になるっていう。昔からそういう映画も多くて、みんなそこにエンターテイメント性を感じている。けれどそれが今変わってきていて、良い奴が悪い奴を倒せばそれが幸せってわけじゃなくて、見方を変えたら、どちらにも正義がある。復讐を果たしたら、またもう1個の復讐が始まる。そんなことの後に待っているのは悲劇じゃないのかって思うと、最終的に世界はどこへ向かっていくのかな? って想像しながらストーリーを考えました。
 で、作るのに丁度4年間かかって、その間に状況が良い方に変わってくれれば良かったんですが、あんまりそうもいかなくて……。きっと今の若い子達は不安を沢山抱えていて、本来なら考えなくていいことまで考えて、辛そうなんですよね。そう言った不安な気持ちに寄り添えるものを作れたら、少しでも、未来を考えられるきっかけになるものを作れたらって思ったんですよね。

サブ⑤ サブ③  サブ⑨(聖(ひじり))

PROFILE
細田守(ほそだまもる)
1967年生まれ、富山県出身。
1991年に東映動画(現・東映アニメーション)へ入社。
アニメーターを経て、1999年に「劇場版デジモンアドベンチャー」で映画監督としてデビュー。その後、フリーとなり、「時をかける少女」(06)、「サマーウォーズ」(09)を監督し、国内外で注目を集める。11年にプロデューサーの齋藤優一郎が細田守監督と共に、映画制作を行う拠点としてアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立。「おおかみこどもの雨と雪」(12)、「バケモノの子」(15)でともに監督・脚本・原作を手がけた。「未来のミライ」(18)(監督・脚本・原作)で第91回米国アカデミー賞長編アニメーション作品賞にノミネートされた。
「竜とそばかすの姫」(監督・脚本・原作)は自身の監督作品歴代1位の興行収入を記録。第74回カンヌ国際映画祭カンヌ・プルミエール部門に選出された。

【スタッフ】
原作・脚本・監督:細田守
作画監督:山下高明
キャラクターデザイン:Jin Kim、上杉忠弘
CGディレクター:堀部 亮、下澤洋平、川村 泰
美術監督:池 信孝、大久保錦一、瀧野 薫
色彩設計:三笠 修
撮影監督:斉藤亜規子
音楽:岩崎太整
企画・制作:スタジオ地図 /スタジオ地図有限責任事業組合、日本テレビ放送網、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 共同幹事作品
配給:東宝

【キャスト】
スカーレット:芦田愛菜
聖:岡田将生
クローディアス:役所広司
アムレット:市川正親
ヴォルティマンド:吉田鋼太郎
ガートルード:斉藤由貴
コーネリアス:松重豊
ポローニアス:山路和弘
レアティーズ:柄本時生
ローゼンクランツ:青木崇高
ギルデンスターン:染谷将太
少女:白山乃愛
老婆:白石加代子
墓掘り人:宮野真守
墓掘り人:津田健次郎
年寄りの長:羽佐間道夫
宿の住人:古川登志夫

©2025 スタジオ地図

文:藍せり

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